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【シネルフル】
HP管理者:

河田 充規
河田 真喜子
原田 灯子
藤崎 栄伸
篠原 あゆみ

〒542-0081
大阪市中央区南船場4-4-3
御堂筋アーバンライフビル9F
(CBカレッジ心斎橋校内)
cine1789@yahoo.co.jp


新作映画
 スキヤキ・ウェスタン ジャンゴ 
「スキヤキ・ウエスタン ジャンゴ」

〜いっぱい具の詰まったスキヤキにバンザイ!〜

(2007年 日本 2時間1分 PG−12)
 監督:三池崇史
 出演:伊藤英明、佐藤浩市、伊勢谷友介、木村佳乃、桃井かおり
    クエンティン・タランティーノ


9月15日〜梅田ブルク7、なんばパークスシネマ、MOVIX京都、神戸国際松竹他にて 全国ロードショー

公式ホームページ→
 西部劇と言えば、まずはハリウッド製の「黄色いリボン」「荒野の七人」などがある。また、イタリア製の「夕陽のガンマン」「荒野の1ドル銀貨」などのマカロニ・ウエスタンもある。これに今、日本版西部劇スキヤキ・ウエスタンが仲間入りした。題名の「ジャンゴ」とは「続・荒野の用心棒」の主人公の名前だ。三池崇史監督は、子供の頃、テレビでよくマカロニ・ウエスタンを見ていたそうだ。その記憶を縦横に駆使したようなカットが積み重ねられるが、決してパロディではなく、単なる焼き直しでもなく、オリジナリティを発揮しているのが凄い。
 何よりもまず、映像と音楽が正にウエスタンの世界を作り上げており、それだけでも十分に見応えがある。オープニングから、いきなり素敵にチープなセットが登場し、いかにもメキシコっぽい光と熱を感じさせる撮影が続き、ビックリさせられる。その後のシーンの展開やカメラのアングルも完璧にウエスタン調で嬉しくなる。そして、激しい抗争の中に、しっかりと人生が描き込まれるが、これに哀愁の漂う音楽が重なるのだから堪らない。
 また、全篇を通じてセリフは英語で、映像とよくマッチしている。今ではもう日本人が英語をしゃべることに違和感がないどころか、かえって無国籍な感じがプンプンして面白い。日本語で話されると、狭い島国ニッポンが頭にチラついて興醒めしただろう…なんてこと思ってたら、オー!間違い、大間違い。何と!!マカロニ・ウエスタンのルーツはニッポンにあった!…黒澤明の「用心棒」?…いえいえ、答えはラストで明らかになる。

  更に、主役級の役者が揃っており、なかなかゼイタクな映画だ。伊藤英明は、流れ者の早撃ちガンマンで、ラストでは「シェーン、カムバック!」というセリフが飛び出しそうな風情を漂わせる。ストーリーは、源氏と平家というギャングの対立を軸に展開する。平家のトップ平清盛に佐藤浩市が扮し、野性的なギラギラした生命力を発散させ、源氏のトップ源義経に扮した伊勢谷友介にはニヒルな雰囲気の漂う“サムライ”がよく似合う。桃井かおりが幼い孫・平八を見守る重要な役で登場する。そのスタイリッシュなガンさばきもまた見事に決まっている。
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 クワイエットルームにようこそ
「クワイエットルームにようこそ」

〜楽しくなければ人生じゃない,
          楽しいだけでは生きられない〜


(2007年 日本 1時間59分)
監督:松尾スズキ
出演:内田有紀、宮藤官九郎、蒼井優、りょう、妻夫木聡、
    大竹しのぶ

10月20日〜梅田ブルク7、なんばパークスシネマ、MOVIX京都、
シネカノン神戸 他全国ロードショー


公式ホームページ→
 誰でも、思うように仕事が進まなかったり、人間関係に行き詰まりを感じたりすることがあるだろう。そんなときには、ちょっと立ち止まって、自分自身を振り返ったり周囲を見回したりする余裕を持てれば、また活力が湧いてくるに違いない。いつまでも落ち込んでいたのでは何も始まらない。主人公の明日香もまた、ふっとエアポケットに入ってしまうが、最後には笑顔を取り戻す。疲れたかなと思ったときのカンフル剤のような映画だ。
 明日香は、ある日意識が戻ると、クワイエットルームと呼ばれる真っ白な無機質っぽい感じのする部屋の中で、ベッドの上に動けないように拘束されていた。外からは変な叫び声が聞こえてくる。ほどなく、そこが精神科病院の中にある女性だけの閉鎖病棟の一室だと分かる。いったい何があったのか、なぜ自分はここにいるのか。それは、明日香が自分を取り戻すための時間の始まりだった。
 前作の「恋の門」より内容はヘビーだが、フットワークは前作と同じく軽快だ。特に、明日香の同居人に扮する宮藤官九郎が絶品だ。冒頭で明日香と面会するシーンでは、台詞や仕草の微妙なズレ加減で笑わせながら、含みを残した感じでワクワクさせる。元夫役の塚本晋也も、いかにも人生のつまらなさが詰まったような雰囲気を漂わせ、ストーリーに説得力をもたらしている。また、蒼井優のフツーにイッてしまった目付きに味がある。

  流されるだけの人生はつまらないが、楽しんでいるばかりでは生きていけない。非現実のようなシチュエーションの中で、現実味を帯びた思いが浮かんでくる。それは、明日香の回想シーンが現実と遊離しないギリギリのところで踏みとどまっているからだろう。また、明日香を演じた内田有紀が突き抜けてしまうことなく、地に足の付いた存在感を示しているからだろう。だからこそ、あり得なさそうな設定の中に引き込まれ、ラストでは何とも言えない爽快さを感じることができる。
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 チャーリーとパパの飛行機
 「チャーリーとパパの飛行機」

〜空の一点を見つめればそこにパパがいる〜

(2005年 フランス 1時間40分)
監督:セドリック・カーン
出演:イザベル・カレ、ヴァンサン・ランドン、ロメオ・ボツァリス、ニコラ・ブリアンソン、アリシア・ジェマイ

11月3日〜シネ・リーブル梅田、11月10日〜京都シネマ、11月下旬〜シネ・リーブル神戸 にて公開
公式ホームページ→
 フランスの美しく広大な風景が空撮でゆったりとダイナミックに映し出される。その風景を眺めているだけで,心が豊かになるような思いがする。主人公シャルリー(Charly)少年は,パパの手作りの模型飛行機を両手で抱えて実際に宙を舞う。その体験を通じて,少年はもちろん,その母親もまた,身近な人の死を乗り越えて笑顔を取り戻していく。この重くなりそうなテーマが,現実の中に幻想を巧みに融合しながら,軽快に描かれている。
 シャルリーは,パパのプレゼントが自転車ではなく模型飛行機だったため,がっかりする。飛行機は飛べるんだと言われても,納得できない。ある日,学校から帰ると,普段と様子が違っていた。ママが泣いており,祖父からパパが事故で亡くなったと言われる。だが,シャルリーの口から出た言葉は「宿題やっていい?」というものだった。パパの死を受け入れられないことが端的に示される。この展開が実に鮮やかで思わず引き込まれる。
 パパに扮したヴァンサン・ランドンが短い登場シーンでその存在を印象づけ,映画に現実感をもたらしている。また,パパが軍に所属して何かを研究していたという設定も効果的だ。物語は,模型飛行機の素材は何か,エジプトで発見された隕石かも…などと展開する。いつの間にか,この飛行機なら飛べるはずだと思わせられているから不思議だ。しかも,少年と飛行機を追い掛けるのにヘリコプターまで登場するが,ドタバタ喜劇調の重たさを感じさせず,語り口はあくまで軽快だ。

  また,ママに扮したイザベル・カレの好演も忘れてはならない。彼女は,夫を亡くして落ち込んでいるが,息子を守るため想像以上の力を発揮する。彼女は,ごく自然な感じで,息子の言動を受け入れると同時に自らも変化していく。彼女が息子を海岸に連れて行ったとき,何かが起こるという期待が湧き上がる。その海岸でのシーンが幻想的で美しく,ここでシャルリーは飛行機を必要としなくなる。
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 パンズ・ラビリンス

「パンズ・ラビリンス」

〜厳しい現実だからこそ心にはファンタジーを〜

(2006年 スペイン・メキシコ 1時間59分)
監督:ギレルモ・デル・トロ
出演:セルジ・ロペス、マリベル・ベルド、イバナ・バケロ、ダグ・ジョーンズ

10月6日(土)〜 公開劇場は、シネ・リーブル梅田、なんばパークスシネマ、MOVIX京都、シネ・リーブル神戸、
10月20日〜京都シネマにて公開

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 現実と幻想とが見事に融合しており,ラストでは透明な美しさに心が洗われる。だが,全体のトーンは決して軽快とはいえず,意外と重い。社会派ファンタジーとでも言えばよいだろうか。幻想の世界は,現実からの安易な逃避場所ではない。逃れられない厳しい現実を前にして,せめて幻想の世界では試練を乗り越えれば幸せが手に入ると信じようとでも言うかのようだ。もっとも,重苦しさがないので救われる。今まで経験したことのないラビリンス(迷宮)の世界が展開していく。
 スペインでは,1936〜39年の内戦で,左派の人民戦線政府が倒れ,フランコ将軍が総統の地位に就いた。その後のフランコ独裁政権下では,軍や秘密警察による厳しい統治が行われ,レジスタンスがゲリラ戦を繰り返していた。このような状況の下,少女オフェリアは,内戦で仕立て屋の父親を亡くし,1944年妊娠中の母親カルメンに連れられてヴィダル大尉の指揮所にやってきた。カルメンは,生きる術としてヴィダルと再婚したのだった。
 ヴィダルは,妥協を許さない冷酷非情な統治者であり,当時のスペイン社会の恐怖を象徴する人物だ。カルメンやオフェリアに関心を示さず,ただ息子の出産だけを心待ちにしている。オフェリアは,このような過酷な現実を生き抜くため,自分は地底王国の王女の生まれ変わりだと夢見て,現実と幻想の間を行き来するようになる。だが,その幻想の世界もまた現実の社会と無関係ではなかった。

  また,メルセデスという女性が重要な役割を果たしている。彼女は,自由を奪われた暗闇の世界に,何とかして明かりを灯そうとする人物のように見えてくる。レジスタンスの協力者で,オフェリアの庇護者でもあるため,厳しい現実の中に幻想を融合させる原動力のようだ。彼女の存在があるからこそ,オフェリアは,幻想の世界で生き続け,レジスタンスを希望の光で満たすことができる。暗い社会を描きながらも,ラストは透明で美しい。
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 夜の上海

「夜の上海」

〜ヴィッキー・チャオの魅力を味わおう!〜

(2007年 日本・中国 1時間40分)
監督:チャン・イーパイ(張一白)
出演:本木雅弘、 ヴィッキー・チャオ(趙薇)、 西田尚美
塚本高史、 ディラン・クォ(郭品超)

9月22日(土)〜 梅田ピカデリー,なんばパークスシネマ,MOVIX京都,OSシネマズミント神戸,MOVIX六甲にて公開


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 上海の夜を背景として,数組の男女の様々な姿が点描されていく。その中心となるのがヴィッキー・チャオと本木雅弘のペアだ。この2人の“上海のいちばん長い夜”の様子が丁寧に綴られている。きっと,ヴィッキー扮するリンシーの切ない想いに涙する人が多いに違いない。何と言ってもヴィッキーが秀逸で,リンシーの微妙な心情を分かりやすく表現している。彼女の魅力が全開の映画だ。
 リンシーは,タクシー運転手をしているが,本木雅弘扮する水島とたまたま出会い,稼ぎになる外国人だと誤解してタクシーに乗せる。だが,彼は金もパスポートも持っていない。彼は,仕事では成功しながらも心が空っぽで,何もかもパートナーの美帆(西田尚美)に任せきりにしていた。言葉の通じない2人が道連れになり,頼ったり頼られたりする中で,少しずつ2人の置かれた状況が明らかにされていく。仕事や恋に満たされない思いを抱えた2人は,一体どこに向かうのだろうか。
 映画の展開は,水島の抱える悩みより,リンシーの心情をクローズアップしていく。彼女は,両親を亡くし,頼りない弟を養っている。余裕のない生活の中で,少ないながらも結婚資金を貯めている。だが,彼女が恋するドンドン(ディラン・クォ)は,夜が明けると,他の女性と結婚してしまう。そんな状況に置かれた彼女の,じっとしてられないが,だからといって積極的にもなれない,微妙に揺れ動く気持ちがヒシヒシと伝わってくる。

  彼女は,仕事中にタクシーを壊してしまうが,その壊れた箇所を見て,何とも言えない素敵な笑顔を浮かべる。観客の頭に”?”を浮かばせた後,ドンドンが修理工として働いていることを示す。また,彼女は「私のこと好きですか」「愛してる」という日本語を覚える。これが後のエピソードの伏線となり,観客の涙腺を刺激する。この辺りの筋の展開がうまく,他の男女ペアのエピソードは背景に退き,ヴィッキーの存在が浮かび上がる。
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 リトル・レッド
「リトル・レッド レシピ泥棒は誰だ!?」

〜やはり一筋縄でいかないのがおとぎ話!?〜

(2005年 アメリカ 1時間21分)
監督:コリー・エドワーズ
出演:アン・ハサウェイ(上野樹里)
パトリック・ウォーバートン(加藤浩次)
デイヴィッド・オグデン・ステイアーズ(ケンドーコバヤシ)
グレン・クローズ(小宮和枝)

10月6日〜シネマート心斎橋、MOVIX京都、109シネマズHAT神戸 他にて公開


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 巷では,お菓子のレシピが次々に盗まれ,「レシピ泥棒は誰だ!?」と話題になっていた。そのような中,赤ずきんがトレードマークの少女レッドは,おばあさんの家を訪ねるが,そこでオオカミに襲われる。その後,クローゼットからぐるぐる巻きに縛られたおばあさんが飛び出し,窓からは斧を持った木こりが飛び込んでくる。一体何があったのか,またどのような経過でそんな事態になったのか。

  カエルの探偵ニッキーがレッド,オオカミ,おばあさん,きこりの4人から事情を聞く。この4人の話を合わせると,ジグソーパズルのように一つの物語が完成し,全体像が明らかになる。その過程がテンポよく描かれるので,爽快だ。誰もウソをついていなくても,1人の話を聞いただけだと,全体を見誤ってしまう。物事の一面だけを見て判断してはならないという”教訓”が示される。おとぎ話からは教訓を読み取らないといけないのだ。
 だが,本当の物語はここから始まる。一体レシピ泥棒は誰か,それが問題だ。その答えは,4人の話から明らかになったストーリーの中で示されていた。そうなのだ,物事の一面だけをぼんやり見ていたのでは,全体像が見えないだけでなく,そこに潜んでいる真実をも見逃してしまうのだ。しか〜し,なかなか深みのある良くできたストーリーだなどと感心しているだけでは,ま〜だまだ浅い!?
 レッドは,お菓子を配達するカワイイ女の子? 実は空手の達人だったりして。カワイイからといって決して甘くみてはならない。また,おばあさんは,お菓子作りの名人? 盆栽やのど自慢を楽しんでいるだけ? いやいや決してそんなことはない。年寄りはこうあるべきだなどと決めつけてはならない。とにかく,おばあさんのパワーには圧倒される。

  全体の構成はもとより,登場するキャラクターもよく考えられており,物事や人物の一面を見ているだけでは真相や本質が分からないことを実感させられる。侮れない映画だ。
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 エディット・ピアフ 愛の讃歌
『エディット・ピアフ 愛の讃歌』

〜マリオン・コティヤールがシャンソンの女王エディット・ピアフを現代に蘇らせた!〜

(2007年 フランス・チェコ・イギリス 2時間20分)
監督:オリヴィエ・ダアン
出演:マリオン・コティヤール、 シルヴィ・テステュー
パスカル・グレゴリー、 エマニュエル・セニエ


9月29日、全国ロードショー

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 シャンソンの聴き応えはもちろん,映画としても見応え十分だ。時代が行ったり来たりする構成は,フレキシブルな感じを生み,人が人生を振り返るような効果を挙げている。1915年12月パリに生まれ,49年に恋人を飛行機事故で失い,彼のために”愛の讃歌”を歌い,63年10月に亡くなった…ピアフの人生。

 彼女が歌のレッスンを受けるシーンがあり,「歌の伝道師となってその歌を生きるんだ」と言われる。また,歌ってこその人生じゃないの,舞台で歌わなきゃ,…やはりこういうピアフのセリフが印象に残る。だが,それ以上に”エディット・ピアフ”誕生のシーン,恋人の乗った飛行機の墜落事故を知るシーン,そしてピアフ自身が最期を迎えるシーン,この3つが特に映画的に面白く印象に残った。
 エディット・ピアフ誕生のシーンでは,舞台に立ったピアフの姿は映し出されるが,歌は聞こえない。カメラは観客席に向けられ,聴衆の反応を捕らえていく。それが大きな生き物の表情が変化するように,まるでスローモーションのように迫ってくる。思わず息を呑む瞬間が生まれ,だからこそ直ぐ後の歓喜がより一層大きなものになるのだ。
 ある朝,ピアフが目を覚まして恋人を迎え入れる…が,ピアフの喜びの表情に引き替え,周囲の人たちの表情は暗い。その落差が言い知れない不安を醸し出し,これが頂点に達したとき,ピアフと共に観客も恋人の乗った飛行機が墜落したと聞かされ,一瞬のうちにピアフの悲痛がスクリーン全体を覆い尽くす。この幸せの絶頂と不幸のどん底を同時に映し出したようなシーンが何とも魅惑的である。

  また,カメラが時代を自在に行き来することにより,幼少時から晩年まで人生のいろいろな側面が対比的に浮かび上がる。特に,しょんぼりと小さくなった晩年のピアフの姿は,溌剌(はつらつ)とした絶頂期との落差が大きい。そのため,彼女の痛々しさや無念さがよく伝わり,切ない思いが込み上がってくる。
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 オーシャンズ13
「オーシャンズ13」

〜ゴージャスなキャストとデザインを満喫〜

(2007年 アメリカ 2時間2分)
監督:スティーブン・ソダーバーグ
出演:ジョージ・クルーニー、ブラッド・ピッド、マット・デイモン
   アル・パチーノ、エレン・バーキン

8月10日〜梅田ピカデリー 他全国ロードショー

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 1960年フランク・シナトラ、ディーン・マーティン出演のコメディタッチの犯罪映画「オーシャンと十一人の仲間」のリメイク第3弾が、スティーブン・ソダーバーグ監督のもと、さらにパワフルになって帰ってきた。

 オーシャン(ジョージ・クルーニー)の長年の仲間、ルーベンは犯罪から足を洗ってビジネスの世界で生きていこうと決意。ところが彼は冷酷なカジノ経営者でありホテル王のウィリー・バンク(アル・パチーノ)に騙されて、財産も立場も失う羽目に。おまけに怒りとあまりのショックで心臓発作を起こして昏睡状態に陥ってしまう―。そんな仲間をオーシャンが放っておけるはずはなく、バンクへのリベンジを計画する。しかし相手は完璧主義者で、新しくオープンするラスベガスのホテルやカジノのセキュリティにもスキがない。果たしてどう決着をつけるのか?
 ジョージ・クルーニー、ブラット・ピット、マット・デイモン、アンディ・ガルシアなど、主役級の俳優たちをこれだけ集められるのはまさに奇跡。そして今回のオーシャンズたちも変装・潜入・誘惑…の大活躍で一瞬たりとも目が離せない。ノリの良い曲に合わせてテンポ良く進んでいくストーリー。劇中では出演者自らの私生活をネタにしたような会話もあり、遊び心が満載。特にラストのオチは傑作で「一本取られた!」と思うこと間違いなし。
 そして仇役のアル・パチーノが実在のホテル王のスティーブン・ウィンさながらの存在感で圧倒的。またその敏腕秘書役として「シー・オブ・ラブ」での共演も懐かしいエレン・バーキンが、紅一点で登場するのも嬉しいところ。 華やかなラスベガスのショーにも勝る、オーシャンズたちの派手なパフォーマンス。今回も彼らに心を奪われるのを、覚悟しておいた方がいい。
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 阿波DANCE
『阿波DANCE』

〜恋も友情もダンスも、“一生懸命”になってこそ輝く!〜

監督:長江俊和  (2007年 日本 1時間51分)
出演:榮倉奈々、勝地涼、北条隆博、橋本淳、尾上寛之


8月25日〜テアトル梅田、ワーナー・マイカル・シネマズ茨木、ワーナー・マイカル・シネマズ高の原、ワーナー・マイカル・シネマズ加古川 他

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 “クール”な熱気に包まれた東京のステージで華麗にヒップホップを踊っていた少女・茜は、母親の身勝手な都合により、徳島・鳴門で暮らすハメに。そこで彼女を待ち受けていたのは、「田舎」を象徴するかのような“暑苦しい”男たちの阿波踊りだった…!

 日本の伝統芸能“阿波踊り”と、アメリカ生まれの“ヒップホップ”を「融合」させた 自分たちの踊り
“AWA DANCE”を通して成長していく高校生たちの姿を描いたこの作品は、「恋」「友情」「夢中になれるなにか」といった、“そのときにしかできないこと”の大切さがふんだんに盛り込まれた、まさに「青春」そのものな1本。
  主人公・茜役には、キュートな笑顔が魅力的な榮倉奈々。本作ではその笑顔を「封印」し、生意気で「ムリ」が口癖のイマドキの女子高生を演じ、新たな一面を見せる。茜とことごとく対立するコージを演じるのは、若手演技派の勝地涼。田舎者のニオイをぷんぷんとさせるコージの装い(シャツは出さずにズボンに入れる!)も、颯爽としている彼に適って、見事“モノ”にしてしまっているのが凄い。
 茜とコージは、人に対してどちらも“不器用”なところがあるのだが、自分の中の「熱」をうまく発散できない茜と、あまりにまっすぐでうまく「熱」をコントロールできないコージの対照的な描写が面白い。そこに、同じ“ダンス”だけれど全く違う、ヒップホップと阿波踊りという“文化”が重なる。物語が進むにつれ、2つのコントラストがどのように変化していくのかも見所だ。 

 ラストで余す所なく披露される“AWA DANCE”は、あのKABA.ちゃんが振り付けを担当。エネルギッシュでいてすがすがしく、もちろん“カッコイイ”ダンスには、さすがのセンスが感じられる。あまり笑わない役どころの榮倉もここでやっと、とびきりのスマイルを見せてくれる。主人公たちのひたむきさや熱さに、どこかこっぱずかしいようなくすぐったいような気持ちになりながらも、自分に正直になって“いま”という一度きりの瞬間を楽しんで生きる「ヒント」を与えてもらった。観終わってそんな風に思える映画だ。
(篠原 あゆみ)ページトップへ
 遠い空に消えた
『遠くの空に消えた』

〜飛ぼうと思ったから飛べた‥‥信じることで願いはかなう〜

(2007年 日本 2時間24分)
監督・脚本:行定勲
出演:神木隆之介、大後寿々花、ささの友間

8月18日から梅田ブルク7、なんばパークスシネマ、MOVIX京都ほかにて公開


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 どこまでも麦畑が広がる、のんびりとした田舎にある馬酔(まよい)村。ここに空港建設の話が持ち上がる。地元の反対運動を抑えるために派遣された空港公団団長(三浦友和)の父に連れられ、都会から転校してきた亮介(神木隆之介)。ふとしたことで地元の悪ガキ大将、公平(ささの友間)と仲良くなる。2人は、父親がUFOに連れ去られたと信じ込んでいる少女ヒハル(大後寿々花)に出会い、ヒハルのために“史上最大のいたずら”を計画する。
 満月の夜、星空の下で、百人近くの子どもたちが集まり、麦畑の合間を一斉にがさごそと走り回る。一体何をしでかすというのだろう‥?

  友達ほど大切なものはない。友達のためなら自分を危険な目にさらすことだってできる。まるで性格の異なる亮介、公平、ヒハルの3人が、互いをかばいあい、思いやる姿が心にしみる。幼友達だった、亮介の父と、生物学者で破天荒な、公平の父(小日向文世)とが、空港建設の賛否をめぐり、対立する立場にありながらも、かつて育んだ友情の絆を思い出していくくだりには、ほろりとさせられる。
 『世界の中心で、愛をさけぶ』の行定勲監督が長い間、温め続けてきた物語。人気漫画やベストセラー小説の映画化が大半という近年の邦画界の中で、もっと自由奔放な映画作りがあるはずという思いから生まれたオリジナルの児童ファンタジー。子どもたちがつくる秘密の丘、流れ星をとる望遠鏡と、不思議な建物や道具が満載で、幻想的な世界がひろがる。

  子どもの頃、誰しも隠れ家をつくったり、UFOや未知のものに興味を持ったことがあるはず。この作品は、そんな子どもの持つ純粋さや、信じる力のすばらしさを呼びおこすにちがいない。
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 ディス・イズ・ボサノヴァ

(C)VITORIA PRODUCOES/WISEPOLICY
『ディス・イズ・ボサノヴァ』

〜耳に心地よいボサノヴァのルーツと魅力〜

(2005、ブラジル、2時間09分)
監督:パウロ・チアゴ

8月18日(土)よりテアトル梅田にて公開!!
以降、9月8日(土)よりシネカノン神戸、9月下旬より京都みなみ会館にて公開。

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 映画との関係でブラジル音楽と言えば「黒いオルフェ」(1959・仏)を思い出す。モノクロの詩的な映像と音楽の小気味よいリズムが、目と耳にしっかりと蘇ってくる。だが、ボサノヴァをはっきり意識したのは、遅ればせながら「ワンダーランド駅で」(1998・米)が公開されたときだ。その後の「ウーマン・オン・トップ」(2000・米)でも、ブラジル北東部のバイア料理と共に、ボサノヴァのメロディーが強く印象に残っている。

 このように今まで映画を観続けてきた中で、何となく気になっていた音楽がボサノヴァだ。そのルーツを確かめ、魅力を満喫できる映画が本場のブラジルからやって来た。これを観逃すなんて、もったいないことはできない。ボサノヴァは、コパカバーナで生まれイパネマに来たと、冒頭で紹介される。その後の映画の展開は、まさしく題名通り「ディス・イズ・ボサノヴァ」だ。ギターのバチータ(奏法)、ハーモニー、歌詞、歌唱法など、ボサノヴァの特徴が伝わるように描かれていく。

  ボサノヴァの創生期は1957〜63年だが、その時から活動してきたカルロス・リラとホベルト・メネスカルの案内で、ライヴ映像を交えて物語は進む。ボサノヴァは、サンバのリズムを継承し、サンバを昇華するものだと語られる。アメリカ音楽からの影響、ジャズとの違いやクラシックとの関係にも触れられる。また、コパカバーナの紺碧の海や赤い夕陽、キリスト像のある丘から俯瞰されるリオの街並みが、ボサノヴァの歌詞やハーモニーとマッチするように美しく映し出される。

  具体的には、独自のバチータを編み出したジョアン・ジルベルト、それからボサノヴァの誕生に重要な役割を果たした女神サラ・レオンが紹介される。これに続く、ヴィニシウス・ヂ・モライスとアントニオ・カルロス・ジョビン(トム・ジョビン)との出会いのエピソードは、微笑ましい感じで、その情景が目に浮かぶようだ。ヴィニシウスは「黒いオルフェ」の基になった戯曲「オルフェウ・ダ・コンセイサフォン」(1956)を作詞し、トムはこれに曲をつけた人物だ。その後、映画は“祝福のボサノヴァ”で締めくくられる。

  付け加えると、先程の「ウーマン・オン・トップ」は、ペネロペ・クルス主演だが、ブラジリアン・テイストが満載で、ボサノヴァが似合うのは当然だといえる。これに対し、「ワンダーランド駅で」はボストンを舞台とするフレンチテイストな映画だが、その雰囲気にボサノヴァが絶妙にマッチしており、それだけで一見の価値がある作品だった。「男と女」(1966・仏)もまたボサノヴァとは切り離せない。ボサノヴァの優しく切ない響きがフランス映画らしさとピッタリと合うのかも知れない。
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 シッコ
『シッコ』

〜 医療制度の衝撃の事実! アナタの命は誰のもの?〜

監督・製作・脚本:マイケル・ムーア (2007年 アメリカ 2時間3分)

8月25日〜テアトル梅田、敷島シネポップ、京都シネマ、MOVIX京都、シネ・リーブル神戸 他全国ロードショー

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 「ボウリング・フォー・コロンバイン」、「華氏911」で、圧倒的な存在感を放ち続けてきたM・ムーア監督。3年越しの最新作では、医療業界へメスを入れる。

 アメリカでは、全国民を対象とした公的な国民皆保険制度がない。一部を除いて、市場原理で利潤を追求する民間医療保険が中心である。つまり、人の命が商品として扱われているようなものなのだ。だから、治療費の自己負担額が支払えなくなり、持家を手放さなくてはいけなくなったり、事故で切断してしまった2本の指のうち治療費の安い指しか治療できなかったりする。これらはほんの一例だ。
 この医療制度で困っている様々な人々に始まり、保険会社の社員、医療審査医、そしてアメリカにとどまらずイギリス、フランス、カナダ、キューバで取材を敢行! そこから浮かびあがるのは、目から鱗のアメリカの医療制度のカラクリ。

  皮肉たっぷりのユーモアが随所で効いている。衝撃の現実を突きつけられるが、膨大な量の〈保険に入ることのできない病気リスト〉が、スター・ウォーズの曲にのせてスクロールされた時は思わず吹き出しそうになるだろう。そんな人肌のおかしさに何度も救われる。
 医療問題に焦点を絞りつつも尚、目を向けるべき様々な問題の普遍的な要因を痛烈に訴えかけてくる。私たちを取り巻く情報が、いかに操作されやすいか。どれほど私たちが、その情報に惑わされやすいかを。

 この作品は必ず、何か大きな変化をもたらしてくれるに違いない。その変化を起こすのは、他の誰でもない私たち一人ひとりなのだけれど。
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 グラストンベリー
『グラストンベリー』

〜豊かな映像に満ちた至福の音楽ドキュメント〜

(2006年 アメリカ 2時間18分)
監督:ジュリアン・テンプル

8月25日〜梅田ガーデンシネマ 9月13日〜京都みなみ会館
近日公開 神戸アートビレッジセンター
 一口にドキュメンタリーと言っても、その素材はもちろん、料理の仕方も様々だ。その中で音楽をテーマにしたドキュメンタリーには面白いものが多いように思う。映像と音楽は、互いに補い合うことにより、単に2倍ではなく、2乗以上の効果を生み出すからだろう。だが、これまでの音楽ドキュメンタリーとは一味も二味も違う、固定観念を打ち破る映画が登場した。それが「グラストンベリー」だ。
 イギリスの南西部のグラストンベリーで1971年からロック・フェスティバルが毎年開催されているという。本作は、そのドキュメンタリーで、素晴らしい映像のコラージュに仕上がっている。モノクロやカラー、美しいシルエットやざらついた映像、ステージ、インタビュー、会場全体の俯瞰など、短いショットが効果的に重ねられていく。
 中盤でビョーク、終盤でデヴィッド・ボーイのステージが映し出されるが、彼らも情景の1コマに過ぎない。主役はむしろ観客たちだといえる。何を求めてグラストンベリーにやって来るのか、どんな気持ちで去って行くのか。本当の自分を見付けに来た人がいる。将来の希望を胸に帰って行く人がいる。また、幸福感のある土地、厳しい現実から離れた素敵な土地、それがグラストンベリーだと言う人もいた。

 カメラは、更に地元の人たちやトイレの問題も捕らえていく。地元の人たちは汚物やゴミに悩まされていると苦情を言う。1981年には2万人が集まったというフェスティバルだから、確かにトイレは切実な問題だ。また、1986年まで会場にフェンスがなかったことや、フェンスができるとそれを乗り越えようとする者、警備する者が登場する。そんなふうな角度からもフェスティバルの歴史が語られている。
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 キャプテン
『キャプテン』

〜最後まで諦めなかったからこそ掴み取れた、勝ち負けよりも“大事なもの”〜


 (2007年 日本 1時間38分)
監督・脚本:室賀厚  原作:ちばあきお 
出演:布施紀行、岩田さゆり、小林麻央、宮崎美子、筧利夫

8月18日公開 シネマート心斎橋、MOVIX堺、109シネマズHAT神戸、他

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 どこにでもいそうな、坊主頭の一人の少年。シャイでちょっと弱々しく、極めて素朴。初めはこの主人公に一抹の不安を覚えるが、野球を通して成長し、たくましく輝いていく彼の姿を見守るうちに、いつしか観客は手に汗握りながら“応援”し、“一喜一憂”していることだろう。

 原作は、ちばあきおの傑作野球漫画。世代を超えて愛され続けている作品を実写化するにあたり、自身も“「キャプテン」ファン”の室賀厚監督にとっては「恐れ」もあったようだが、それを上回る「熱意」と「愛情」が映画からきちんと伝わってくる。
 墨谷二中に転校してきた谷口タカオは、部員たちのとんだ“カン違い”から、野球部の新キャプテンに任命されてしまう。実は球拾いの経験しかなく、試合に出たことすらないが、どうしても本当のことを言い出せない谷口。果たして彼は、この万年最下位弱小野球部の“救世主”になることができるのだろうか…?!
 派手な展開は一切ない。ごく普通の少年が大好きな野球に全力で打ち込み、仲間と共に切磋琢磨し、青春を謳歌する。だが、何の“変化球”もない等身大の中学生の姿が描かれているからこそ、観る者の胸にまっすぐ響いてくる。同時に、汗や泥さえも輝いて見えるほど彼らが眩しく感じるのは、その「一瞬」に全てを燃やせるほどの「情熱」を失ってしまった「現実」に寂しさを覚えているからだと気付かされる。大人になってからは味わうことのできない「感覚」が懐かしくもあり、羨ましくもある。

 だが、それだけでは終わらない。「諦める」ことや「逃げる」ことを覚えてしまった大人たちに“喝”を入れるかのように、“努力”、“根性”、“やればできる”といったシンプルかつ力強いメッセージを、彼らは“直球”で投げかけてくるのだ。
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 オフサイド・ガールズ

「オフサイド・ガールズ」

〜元気一杯の少女たちが輝くサッカー映画〜


(2006年 イラン 1時間32分)
監督:ジャファル・パナヒ
出演:シマ・モバラク・シャヒ, サファル・サマンダール
シャイヤステ・イラニ, M.キェラバディ

9月,OS名画座にてロードショー!

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 イランからやって来たサッカーを題材にした映画だが,試合のシーンそのものは全く出て来ない。ちょっと視点を変えるだけで,色々と面白いものが見えて来る。イランでは女性のサッカー観戦が禁止されているが,それでもナマで見たいという女の子たちが男装して競技場に潜り込もうとしていた。何しろ代表チームのワールドカップ出場が懸かった大事な試合だ。そんな彼女たちが元気で,ちょっと面白く,ラストでは前向きに生きるパワーがひしひしと伝わって来る。

  捕まった少女の1人がスタジアム内のトイレに行ったとき,監視の兵士の隙を見て逃げる。そのままどこかで試合を観戦していると思っていたら,しばらくして自発的に戻って来る。意外性があり,それでいて思わず納得してしまう,なかなか印象的なプロットだ。彼女のような優しさがあれば,きっと世の中から争いがなくなるだろう。そんな監督のメッセージが伝わって来るようだ。

  また,捕まった少女らと逃げないように監視する兵士たちの様子が,何気ない日常の風景のように描かれる。実際にイランでは監視し監視されるというシチュエーションは珍しくないのかも知れない。だが,少女らと兵士たちは,対立する立場にあるものの,互いに国家や社会の中で与えられた役割を果たしているだけだという暗黙の了解があり,それを前提に行動しているようだ。その様子を見ていると,統制というタテの関係と離れて,人間同士のヨコの繋がりこそ大切なんだという実感が湧いて来る。

  人間にとって国家や社会は必要な存在だが,その中では色んなルールが作られる。人間同士が共同して生きて行く限り,多かれ少なかれ不自由さは避けられない。自分が置かれた環境によって自由が制約されたとき,ウジウジしていても仕方がない。精一杯ポジティブに生きなきゃ損!そんな声が聞こえて来る。その意味で,地球上のどこでどんな人が観ても共感できる作品に仕上がっている。
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 イタリア的、恋愛マニュアル
『イタリア的,恋愛マニュアル』

〜懐かしい香りのおしゃれな恋愛コメディ〜
(2005年 イタリア 1時間58分)
監督:ジョヴァンニ・ヴェロネージ
出演:シルヴィオ・ムッチーノ, マルゲリータ・ブイ
   ルチャーナ・リッティツェット, カルロ・ヴェルドーネ

今夏、ロードショー
梅田ガーデンシネマ/京都シネマ/シネカノン神戸にて

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 リヴィアという女性に導かれるように,男女の愛に関する4つのエピソードが素敵に紡がれていく。恋に落ちて,危機的状況に陥り,浮気して,棄てられて…その先には…。一見すると,それぞれの人生の断章が描かれているだけのようだが,決してそうではない。

  バラバラの4組の男女の人生模様がリレーのように繋がり,微妙に重なり合う。そして,ラストでは,誰にでも共通する1組の男女の人生が浮かんでいることに気付かされる。ちょっと不思議な感覚で,人は皆似たり寄ったりだという妙な安心感に包まれるかも。

  トンマーゾは,たまたま出会ったジュリアにメロメロになり,いかにもイタリア的(!?)なアタックを続ける。その一途さがコミカルな感じでテンポよく描かれていく。そして,めでたくゴールインするが,…次は倦怠期を迎えたマルコとバルバラの様子が描かれる。

  何だか思いがズレてしまった2人が明け方の公園のベンチに並んで座っている。互いに相手を窺うような様子に思わず頬がゆるむが,そこにちょっとしたアクシデント…。ここでワープして,危機的状況から浮気へ。男女とも,パートナー以外の異性にときめいて…。

  この辺りの展開は,夫婦なんてどれもこれも似たようなものさ,という囁きが聞こえてくるようだ。気まずい空気が流れたり,相手の言動に苛立ったり。それでも夫婦の時間は流れる(?)。…が(!),ふとしたきっかけで棄てられて1人ぼっちになってしまうかも。

  落ち込んだゴッフレードは,家出した妻に電話で愛のメッセージを伝えようとするが番号違い。初恋の女性との再会に胸をときめかせてレストランへ赴くが,なんとその女性は…。更に不倫に走っても,上手くいかない。

  この最後のストーリーが抱腹絶倒で,一番笑わせられる。そして,泣かされる。傷心のゴッフレードだが,彼の人生の先には何が待っているのか。4つのストーリーが終幕を迎えるとき,脳裏にはメビウスの輪が浮かぶ。

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 リトル・チルドレン
「リトル・チルドレン」

〜いま生きていることが愛おしくなるかも〜

(2006年 アメリカ 2時間17分)
監督:トッド・フィールド
出演:ケイト・ウィンスレット, パトリック・ウィルソン
ジェニファー・コネリー, ジャッキー・アール・ヘイリー


8月下旬〜OS名画座,京都シネマ,シネカノン神戸

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 日常の中で,自分の立場が見えなくなったり,満たされない思いに包まれたりすることはないだろうか。本作は,ゆったりとしたストーリー展開の中で,そんな男女4人の姿をじっくりと見せてくれる。特に印象に残るのは「ボヴァリー夫人」についてディスカッションするシーンだ。その中でサラが言う「別の人生への渇望」こそ,4人の共通項であり,本作のテーマを端的に示すフレーズだろう。
  たとえば,自分の置かれた状況がイマイチしっくりしないと感じながらも,自分の求めるものが見えてこないことはないだろうか。サラは,娘を育てる専業主婦で,夫との会話がなく,近所の主婦たちともなじめない。ブラッドは,息子の面倒をみる専業主夫で,妻の期待に応えられず,自分の将来も見付けられない。そんな男女が出会って惹かれ合うが,その先に幸せは待っているのだろうか。
  また,自分の犯した過ちから解放されたくても,偏見に阻まれたり焦燥感に苛まれたりして,なかなか思うようにならないことはないだろうか。ロニーは,性犯罪者のレッテルを貼られ,近隣から冷たい視線を浴びるが,そのレッテルをなかなか剥がせない。ラリーは,誤って少年を射殺してしまった元警官で,その罪障感からロニーを執拗にマークしているが,その心が満たされることはない。そんな男2人の将来に光は見えるのだろうか。
  不倫に陥った男女はどこに向かうのか,また過誤に捕らわれた男2人は救済されるのか…それぞれの結末へ向かう展開には引き込まれる。ただ,不倫の行く末は,サラやブラッドが自分で選んだのではなく,偶然に左右された感じを受けるし,そこにサラの夫やブラッドの妻の存在が見えてこない。そのため,人によって印象や評価が違ってくると思う。
  もっとも,普通の人々の渇いた心をシリアスに見つめながらも,男女4人を包み込む全体のトーンは優しく温かい。だから,エンディングでは愛しさがじわっと広がってくる。
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