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★その街のこども
『その街のこども』
〜復興した神戸の町で、15年目の癒しの夜が明ける〜

(2010年 日本 1時間23分)
監督 井上剛
脚本 渡辺あや
出演 森山未来 佐藤江梨子 津田寛治

・作品紹介⇒ こちら
・公式サイト⇒
 http://sonomachi.com/
◎【森山未來・渡辺あや】 緊急舞台挨拶決定!!
11月20日(土)〜シネ・リーブル神戸 シネ・リーブル梅田 にて先行上映
12月4日(土)〜京都シネマ
1月15日(土)〜東京都写真美術館ホール 池袋シネマ・ロサ ほか全国順次公開
 阪神・淡路大震災から15年目の1月17日にNHKで放送され大反響をよんだ震災ドラマ『その街のこども』が劇場公開される。子どもの頃に被災し今は東京で暮らす勇治と美夏が、追悼式典の前日に神戸で偶然出会い、今まで心に秘めていた“あの日”の記憶を辿り始める。
  街だけではなく人間の心まで破壊した震災への憎みと、生き残った罪悪感を抱えながら大人になった勇治と美夏。彼らの15年分の哀しみが、少しずつ紐解かれていく様子をカメラは静かに捉える。実際に震災を体験した森山未来と佐藤江梨子の切迫した演技の効果もあり、ドキュメンタリーよりも心の奥に踏み込んだ、魂を揺さぶる感動作に仕上がった。
   監督は「ちりとてちん」や「てっぱん」の演出をてがける井上剛。脚本は『ジョゼと虎と魚たち』『天然コケッコー』の渡辺あや。劇場公開を前に2人揃って大阪のNHKでインタビューに応えてくれた。兵庫県西宮出身の渡辺は、震災当時はドイツのハンブルクに住んでおり直接の震災体験者ではないが、生まれ育った街が破壊された不条理は今でも心に“シコリ”となって残っているようだった。慎重に言葉を選びながら「色々なことが身近な人に起こって、それ以降は気持ちをどう処理していいか分からなくて(震災は)なるべく思い出したくない」と語る。しかし、ここで逃げたら作家として終わりだと奮い立ち、劇中の主人公と同じように神戸の街を歩いて回ったと言う。そして、東遊園地で行われる追悼式典に参加して「人が人を想う」美しさに感銘を受け、脚本作りへの突破口を見出した。
 大きなプレッシャーのなか書き上げられた脚本を読んだ井上監督は、感動のあまりすぐに渡辺に電話を入れた。「僕は震災には関係のない人間ですが、もらった台本を読んでこれなら僕もわかる!と。ニュースやドキュメンタリーを見て伝わるものはあるけれど、これは気持ちが揺れた。震災当時、僕は東京でホームドラマを撮影していたのですが、一瞬にして街がぶっ壊れたのを見て、都市が崩壊するって何だろうと考えていました」
 脚本には森山と佐藤の体験や心情も反映されている。例えば2000円のやきいもを売りに来たおじさんの話はそのひとつ。渡辺は「やきいも屋の話は、ドキュメンタリーとしてNHKが報道するには問題がある。ドキュメンタリーでは拾えない日常レベルの話を描くところにドラマとした意義がある」と話す。ただ悲しみばかりにスポットをあてるのではなく、震災という弱みをついて金儲けをしようとした大人たちの行動が、子どもたちの心にさらに深い傷を負わせたデリケートな事実にも切り込んでいく。
 今まで語られることのなかった話にも触れるあたり、主演の2人も相当ナーバスになっていたと監督は言う。「生身の自分と切り離せない役でとても緊張していた。初めに東京でした本読みで、彼らの中ではもう何かが出来上がっていたようでした。」自作の撮影には毎回立ち会うという渡辺も「今回は楽しくなかった(笑)本当にキツイ。精神的にみんなが追い詰められていて、震災を自分の問題として抱えている。主演の2人も全然喋らないし、話しかけるのも怖いくらい緊張で張りつめていた。それぞれの持ち場で個人的に戦っていました。終わってからですね、笑えるようになったのは」というほど大変な撮影だったと明かす。

 
「放送当日の朝、追悼式典に行くラストシーンを撮影して、その日にスタッフみんなで完成品を見たんですが、終わっても誰も何も発してくれなくて…。でも、一晩たってから多くの反響をいただいて本当にほっとした。自分たちが思っていた以上にコメントを頂いて、さらにその中で視聴者が語り合っているのを見て、一方通行じゃないと嬉しく思った」と監督が語るように作品の輪はどんどん広がっている。  
 震災を風化させてはいけないけれど、自分を責める必要はないし、独りで抱え込むこともない。ゆっくりでいいから、意思をもって地に足をついて生きていればそれでいいと神戸の街が言っているような気がした。本作が、秀逸なのはメッセージ性が強いのに、まったく押し付けがましくないことにある。ラストも二通りの道が用意されている。しっかり震災と向き合った美夏に反して、まだまだ心を浄化しきれない勇治。追悼のつどいに「一緒に行く?」と聞かれ「やめとく」と答えた勇治の正直な胸の内に救われた人は多いかもしれない。最後に監督は「映画を見て劇場を出た後、来た時とは街の印象が違って見えるはず。その街を感じてほしい」と話しインタビューを締めくくった。
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