topへ
記者会見(過去)
旧作映画紹介
シネルフレバックナンバー プレゼント
 『鉄男 THE BULLET MAN』

鉄男 THE BULLET MAN 塚本晋也とエリック・ボシック 記者会見


(C) TETSUO THE BULLET MAN GROUP 2009
『鉄男 THE BULLET MAN』
〜塚本晋也監督と二代目“鉄男”エリック・ボシックが来阪〜

(2009年 日本 1時間11分)
監督・脚本・原作・撮影・美術・特殊造形・編集 塚本晋也
出演 エリック・ボシック 桃生亜希子 中村優子 ステファン・サラザン 塚本晋也

2010年5月22日(土)梅田ブルク7 シネマート心斎橋 シネ・リーブル神戸 京都シネマ
公式サイト⇒ http://tetsuo-project.jp/ 

 世界を熱狂させたサイバーパンク・ムービー『鉄男』の誕生から早20年。今や“世界のツカモト”となった塚本晋也が、新たな挑戦として21世紀版の『鉄男 THE BULLET MAN』を完成させた。大都市・東京を舞台に、息子を殺された怒りから、肉体を鉄に侵食され、兵器と化していく男の復讐と葛藤を描く。
 2009年7月にアメリカで全世界同時製作記者会見を行い、日本公開前に各国の映画祭を回るなど、鉄男プロジェクトは世界照準を目標に動いてきた。しかし、作品を初披露したヴェネチアでの反応に監督は物足りなさを感じたと言う。「拍手をくれるんだけど、それが上々という感じで、あれ?この反応は違うなと。もっと“熱狂”か“嫌悪”かというくらい刺激があってもいいはず。観客のおだやかなリアクションを見てこんなのは「鉄男」じゃないと思った」と素直な胸の内を語る。常に完璧を求める監督は、それから4ヶ月かけて徹底的なやり直しを慣行。その甲斐あって“最終完成型”を初披露したニューヨークでは、本来の鉄男ならではの熱狂が生まれた。
 そもそも、20年前に鉄男が誕生したきっかけとは何だったのだろう。その質問に監督は「自分の中のモヤモヤしたものを出したかった」と答える。「肉体と鉄を組み合わせたエロティシズムを表現したいという思いから始まり、SFとエロ、人間と鉄のフェティッシュ的なものを描こうと。それが海外で評価され『鉄男U』ではサイバーパンクを意識して、都市と人間をテーマにバーチャルリアリティの世界を構築していった。自分の中では『鉄男U』で完結していたんですけど、その時に『鉄男』のアメリカ版を作らないかと言われて、すごく興味を持ちました。それが18年前です。」つまり、本作は構想18年ということになる。完成までになぜ長い時間かかったのか聞くと「自分がやりたい鉄男と、やりたい状況を探し出すのにすごい時間がかかった。その間もアメリカのプロデューサーからたくさん声がけをしてもらっていて、つい5年前まではアメリカの会社とやるのかなと思っていたんですけど、最終的には伝統的な自主制作スタイルで、思った通りの物ができました」
 今回、鉄男役に抜擢されたのは、日本在住の外国人俳優エリック・ボシック。俳優の他に、ダンサーや写真家としても活躍するエリックは、大の塚本ファン。「塚本作品は全部好き」と公言する彼と『鉄男』との出会いは、エリックがハイスクールに通っていた頃にさかのぼる。「その頃、友達と変なモノを探している時期があって、スタンリー・キューブリックの『時計じかけのオレンジ』や、アラン・パーカーの『ピンク・フロイド ザ・ウォール』を見た流れで『鉄男』も見たんです。」それから、20年。まさか鉄男を自分が演じることになろうとは、本人も予想しなかっただろう。「塚本晋也が映画を撮ると知人から聞いて、すごくエキサイトした。絶対やりたいと思ったけど、外国人だからFBIとかCIAとかそんな役かなと思っていたんです。でも、二回目のオーディションで「これは『鉄男』で、この役は主役です」と聞かされて、もう100倍くらい気持ちが重くなった。なぜなら、世界中で鉄男は知られているし、日本のシネマのアイコンだから。ゴジラ、ウルトラマン、AKIRA、鉄男!!みたいな(笑)ものすごく光栄でした。」
 元祖・鉄男と言うべき俳優の田口トモロヲと、新・鉄男のエリック、2人の共通点について監督は「普通のサラリーマンの演技と、異様な鉄の怪物を本物らしくみせる特殊な演技、両方出来るのが二人の共通点ですね。あと、アングラ魂があって普段真面目ということ。ただ、田口さんは自分が生まれ変わったと思っているみたい。英語もうまくなったし背も高くなってスマートになったなと(笑)」
 エリックは監督の印象について「声が静かで控え目で、思っていた感じと違った。でも、おとなしいけどその中にテンションがある。今回も鉄男への愛ではなく、もう一度この悪魔と戦えるという気持ちがあったから映画を作っていたんじゃないかと思う」と答える。
 さらに、監督に何故あえて全編、英語台詞で挑んだのかを聞いた。「アメリカで『鉄男』を作りたいという気持ちが消えなかったんですね。色々と変化して日本の俳優でやろうかとも考えたけれど、一回もアメリカ映画じゃない鉄男にしようとは思わなかった。最初はニューヨークで、鉄男が縦横無尽にビルをぶち壊すことを想定していたんだけど、ニューヨークは2つビルが倒れたので、そこをもう一度壊すのは非常に不謹慎ですしテーマも違ってしまう。鉄男というのはバーチャルリアリティの現実か夢か分からない所で、現実を呼び覚ますために“ヤツ”が皆を覚醒させる話なのに、ハッキリ覚醒していて、ビルも壊れて、命の大事さも分かっているニューヨークをもう一回壊す必要はない。じゃあ、どこの都市を今壊さなきゃいけないかと考えた時に、平和ボケした東京かと。戦争が終わって60年も経って、生死の大事さを語れる人が日本にいなくなってきている。“リセットボタンを押せば生き返る”くらいの意識で人を殺してしまう若者の都市になってきたという危険性を感じるので、ここは壊さなきゃいけないなと。でも、最初の鉄男のように、本当に壊す所までいけない東京になってきている。悪意に対して悪意をぶつけると全てが崩壊して、その力は取り返しのつかないことになってしまう。だから、今回の鉄男は力を使うか使わないか葛藤するという話になっています」
 18年の重みを感じさせる熱い語り口の監督に『鉄男W』の可能性を問うと「もういいやという気持ちと、またやってもいいかなと思う気持ち、両方あります。だけど、一度「やる」って返事しちゃうと、「あれはどうなっているんですか?」と聞かれ続ける。それは、とても苦痛なので、もう絶対「やる」とは言わない(笑)もう17年苦しむのは嫌なんで(笑)」
と本音がポロリ。別のテーマの作品も撮っていきたいとのことなので、続編ができる可能性は低そうだ。見納め覚悟で、新生『鉄男』の熱狂をスクリーンで体感して欲しい。
(中西 奈津子)ページトップへ
   
             
HOME /ご利用に当たって