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★『森聞き』柴田昌平監督インタビュー

『森聞き』柴田昌平監督インタビュー

(2011年 日本 2時間5分)
監督:柴田昌平
出演:長谷川力雄、椎葉クニ子、小林亀清、杉本充、中山きくの、大浦栄二、河合和香、井村健人他

2011年11月12日〜第七藝術劇場ロードショー公開他全国にて上映イベントあり。
※第七藝術劇場11/12,1の上映後、柴田昌平監督舞台挨拶あり。
更に監督と観客がゆっくり話す「森聞きコーヒーたいむ」開催。
(詳細は第七藝術劇場サイトをご覧ください。)

公式サイト⇒ http://www.asia-documentary.com/morikiki/
(C) プロダクション・エイシア

 4人の高校生が、森の生活の名人に直接インタビューし、名人の生き方や仕事に対する姿勢などを「聞き書き」する様子を紡いだドキュメンタリー、『森聞き』が11月12日から第七芸術劇場で公開される。フィンランドアカペラグループ、ラヤトンの目が覚めるようなレインボウボイスに包まれながら、壮大な森の風景や、高校生と名人の噛みあうようで噛みあわない会話、そこから繰り出される本音、異世代のつながりが静かな感動を呼ぶ作品だ。「聞き書き甲子園」プロジェクト発足当時から見守り続け、映像化した本作の柴田昌平監督に話をうかがった。
━━━本作で高校生たちが参加している「聞き書き甲子園」とは?
このプロジェクトは10年前にスタートしました。山で生きている人は人間国宝にもならないし、文化財にもならないし、あまりにも当たり前すぎて、注目されることはありません。でもだんだん消えていくことに対して何かを残せないかということで、森の名人を表彰しようしたとき、法隆寺の聞き書きで有名な塩野米松さんが、「こういうおじいちゃんたちに表彰状だけあげたって誰も喜ばないし、それなら高校生が聞き書きに行って、やってきたことをそのまま残した方がいいんじゃないか。」と声を上げたのです。
そこから立ち上がっていったプロジェクトで、国の補助があった2年間で終わるかと思っていたら、聞き書きした高校生が「2年で辞めるのはもったいない。続けたい。」と彼らを主体としてNPOを作り、ボランティアとしてかかわり続けて今までやってきたんですね。実際に聞き書きに行く前に東京の高尾で研修があるのですが、体験した先輩が教えたりもします。そういうことが続ける原動力になっています。

━━━聞き書きを映像で残そうとしたのはなぜですか?
自分自身が子どもの頃、転校生活を送っていたんです。大学生の頃にたまたま山梨県で暮らしながら聞き書きをしたことで、はじめて自分の中にもう一つのふるさとができたという原体験があったので、聞き書きは面白いと思っていました。
プロフェッショナルなおじいちゃんたちを撮るというドキュメンタリーや、全国の農村を撮ることは今までやってきたので、おじいちゃんたちだけ撮るだけではない、これから世の中に出てくる何にも知らない子たちが接することで何が見えてくるのかを撮りたかった。深い答えではなく、おじいちゃんと二人で写っているのはどんな絵なのかをやってみたかったのです。おばあちゃんたちだけ撮るとどうしても過去になってしまうけれど、そこにバカみたいであっても高校生がいると、おばあちゃんたちが未来の姿に見えます。
━━━なぜこの4人を選んだのですか?
まず最初に北海道の男の子(大浦君)を選びました。ほんとに無口なんだけど、すごく目がきれいで、彼なりに行動の中でいろいろ考えているところにすごく魅力を感じました。
次は東京の女の子(河合さん)。この子は自分が考えていることを言葉にしてくれる天才で、高校生はほっておくと優等生的なことをしゃべるんだけど、この子は一生懸命自分の中で考えて何に悩んでいるのか解説してくれるんです。

あと、これまで聞き書き甲子園を見てきた中でダントツに素敵な焼き畑名人のおばあちゃんを撮りたくて、あのおばあちゃんを訪ねていく九州の女の子(中山さん)を選びました。全寮制の学校に行っているので、他の子と違う感性を持っていましたし。
岐阜のマンガ少年(井村君)は、杉の木の名人が今撮らなければもう絶対撮れないという情報をもらっていたから、なんとか映像にしたくて彼のところに訪ねていける人ということで選びました。この子は一番面白いですよ。

━━━焼き畑での高校生とクニ子おばあちゃんの会話はかなりギャップがありましたが、その辺はどう捉えていますか。
学校で「好きな仕事をやりなさい」と教えられるじゃないですか。好きな仕事をしないと人生を失敗するみたいな。中山さんは優等生で、多くの高校生が思っているであろう好きな仕事=職業という思いこみがあるから、「焼き畑のどこが好きですか?」といった質問をしてしまう。そのギャップが面白いです。
焼き畑のクニ子おばあちゃんは、確固たるものや誇りがあるし、息子が家を出ても連れ戻すぐらい信念と根性があって、あそこまで持っている人はなかなかいないです。つないできたものを守りたいという意識がとても強くて、高校生のほうは好き嫌いで物事を決めようとする。中山さんはそのギャップに気づく力があって、何か違うことは分かるけど、何が違うか今は分からないんですね。

その点、杉の木名人を訪ねた井村君は逆によく分かっているんですよ。そんなに簡単に世の中生きていけないと思っているから、「好きなことだけ聞いたらイヤになっちゃうから。」と言っていたんですね。実際に杉の木名人のところに行ったらうまく質問できなくて「仕事のいいところは何ですか」と「いやなところは何ですか」しか言えなかったのですが、そのうちの名人の方がいろいろしゃべってくれました。彼は高校を出て就職するとき、給料がいいところは他にもあったらしいけど、技術がとても難しい造船所を選びました。技術の大切さを学んだのでしょう。
━━━撮影で心掛けたことはありますか?
映像のバランスがとても難しいのですが、おじいちゃんと高校生が必ずツーショットになるように意識して撮っていました。一緒に写っているのが大事で、そうでなければ未来につながっていかないのです。前の『ひめゆり』は一つ一つの証言が重かった。今回は「宇宙人だ」とか、その一言一言が事実を語っているわけではないけれど、言葉と言葉の行間にすごく感じさせるものがあるので面白いと思います。映画を見てイヤだという人の意見で「もっと名人の話を聞きたかった。」もう一つは「高校生があまりにバカに見える。」
こういうことを言う人は自分が大人だと思っている人で、高校生に全く共感しないとこの映画は面白くないでしょうね。
━━━キャメラで撮られている意識がないぐらい、みな自然に映っていましたね。
ほとんどの子にとって初めての一人旅なので、大人と一人で向き合うということが初々しいし、緊張しちゃって、カメラのことなんて彼らは全然忘れてしまってますよね。「この人の人生を聞いてこい。」みたいなプレッシャーだけ与えられているので(笑)。
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 自ら「聞き書き甲子園」に申し込んだ4人が、聞き書きする前の心境を語るインタビューでは、取り立てて楽しいことも悪いこともない、先が見えない現在を生きる彼らの焦りや、思春期ならではの戸惑いが見える。名人へのインタビュー後、それぞれ忙しい日常生活の合間を縫って、聞いてきたことを文章に起こしていく中で、岐阜のマンガ少年が、「宿題など出したことがないけれど、こんなに集中して机に向かったのは初めて。」と語っていたのも非常に印象的だった。この体験が彼らに与えたもの、それはきっとすぐに表れなくても、じわじわとボディーブローのように効いてくるに違いない。「見ている人がそのうち子どもでもなく、おじいちゃんでもなく、自分と向き合えばいいかな。」いう柴田監督の言葉に、悩みながらぶつかっていく高校生たちを見守る視線の温かさが重なった。名人×高校生がつなげる未来への微かでも確実な光を感じることだろう。
(江口 由美)ページトップへ
   
             
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