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★レオニー松井久子監督インタビュー
『レオニー』松井久子監督インタビュー
〜女として、母として、人生を生き抜いた強さ〜
英題: LEONIE

(2010年 日本・アメリカ 2時間12分)
製作・脚本・監督: 松井久子
出演:エミリー・モーティマー、中村獅童、原田美枝子、竹下景子

2010年11月20日〜梅田ガーデンシネマ、京都シネマ、三宮シネフェニックスほか全国ロードショー
・作品紹介は→こちら
・公式サイト⇒
http://leoniethemovie.com/
 世界的に活躍した彫刻家イサム・ノグチの母、アメリカ人のレオニー・ギルモアがたどった人生航路が重みをもって迫ってくる。20世紀初頭のNYで、レオニーは、日本人の青年詩人ヨネ・ノグチ(野口米次郎)と出会い、恋に落ち、身ごもる。戦争をはさんだ激動の時代に、異国の地日本とアメリカ、2つの国で、シングルマザーとして二人の子どもを育てたレオニーの人生が、美しい風景の中、詩情豊かに描かれる。

  撮影監督には、フランス・セザール賞を受賞した永田鉄男、音楽にヤン・A.P.カチュマレクと、日米一流のスタッフが集結。アメリカのニューオリンズはじめ日米13都市でロケ撮影が行われた。メガホンを握ったのは、『ユキエ』『折り梅』で家族の絆を描き、200万人もの観客を感動の渦で包んだ松井久子監督。11月20日からの全国一斉公開を間近に控え、単独取材に応えてくださった松井監督のお話をご紹介します。
 ■レオニーについて
――映画化しようと思われた動機は?
今の若い女性たちは、苦労することは避けたいとか、大変なことはやりたくないと思っているようにみえます。でも人生なんて大変なことばかりで、若い時には幾つも失敗しますし、不幸な出来事も押し寄せます。でも、そういった負の体験も全部プラスにして頑張って生きていくしかありません。女性は、本来、そういう強さを持っているはずです。だから、あえて今、後輩達にレオニーの生き方を投げかけてみたいというのが動機の一つです。
――レオニーをどんな女性として描こうと思われましたか?
学生の頃は、生意気で野心家で、鼻持ちならない女の子だったレオニーが、人生で様々な体験をしていくことで、人間としての幅ができ、いろんなことに耐えられるようになり、優しくなっていく。そんなたくましく、潔い女性として描きました。

――レオニーのことは今までほとんど知られていませんよね?
イサム・ノグチ、ヨネ・ノグチとも有名ですが、レオニーは本当に無名で、いわば歴史から抹殺された存在です。ドウス昌代さんの「イサム・ノグチ〜宿命の越境者」や国会図書館の資料などから、どういう行動をしたのかという事実はある程度わかりましたが、レオニーのキャラクターやセリフについては私の解釈というか想像です。

■脚本について
――脚本で一番苦労された点は?
私が日本語で最初に書いて英語に訳してもらい、アメリカのライターがそれを読み、調べ物をしたりして書いて、私がまたそれを読んで…の往復で、最終14稿までいきましたが、実質的には28稿という感じです。私の考えていることがアメリカのライターに理解してもらえないことが頻繁にあり、言語が二つある中での苦労は多かったです。日本語にあっても英語にはない言葉を、英訳してもちゃんと伝わるように言葉を探り当てるのも大変でした。
1人目、2人目の脚本家とそれぞれ1年近く共同作業を続けたのですが、どうしても合わないということで別れ、3人目のデービッド・ウィナーとやっと完成稿にたどりつきました。

――そこまでシナリオにこだわったのは?
日本よりもアメリカの方が、シナリオですべてが決まります。シナリオだけで、資金も役者もスタッフも集まるのです。逆にそれ以外のことは何も気にしないんですね。シナリオがちゃんとしたものでないと通用しないことがわかっていましたので、資金集めに時間がかかっている間、じっくりシナリオに取り組みました。
エミリー・モーティマーもシナリオを読んでレオニーをやりたいと言ってくれましたし、一流のスタッフたちが皆シナリオだけで集まったんです。

――書き留めたいような、心の琴線に触れるセリフがたくさんありました。
『折り梅』の時も自分でシナリオを書きましたが、そのことをずっと考え続けていると、言葉が降りてくる感じです。構成とかはかなり悩んだりしますが、セリフはほとんど降ってくる感じですね。

■スタッフについて
――自然の風景や室内シーンも美しく、撮影がすばらしいですね。
『エディット・ピアフ〜愛の賛歌〜』(2007)を観て、こういう光と影の使い方が上手いカメラマンにお願いしたいと思って調べたら、フランス映画なのに日本人のカメラマンだとわかりました。永田さんは、シネマスコープでないと映画はやらないという方で、シネマスコープは初めてで、最初は役者の動かし方も全く違って戸惑いましたが、映画らしい映画になりました。

――日本での撮影とアメリカでの撮影で、スタッフが皆違うのですね?
スタッフは、カメラマン以外はすべて日本とアメリカで異なります。カメラマンにしても今回初めて組みましたので、今まで監督した映画3本とも全部、カメラマン、スタッフとも違っています。だから、自分のビジョンを明確に打ち出さないとスタッフはついてきてくれません。
日本の明治時代は日本でちゃんと撮って、アメリカはアメリカで、とそれぞれの時代考証を踏まえながらも、照明や小道具、衣装、色彩、インテリアについては、私の考えで統一していきました。

――アメリカと日本と、演出してみてどうでしたか?
アメリカと日本では全然やり方が異なりますね。でも、私ひとりがアメリカのシステムに飛び込んだらいいし、そのほうが早くてスムーズだと思いました。アメリカの現場はラフで明るく、皆、気軽に私に話してくれます。時間はきっちりしていて、週に2日は休みで、徹夜でだらだらということもありません。オンとオフのスイッチの切り替えがはっきりしていて、元気に仕事ができます。
日本に帰ってくると、日本映画独特の雰囲気があって、ぴーんと張り詰めた静かな中に、「監督、入ります」と言われたりして、それはそれでまた貴重な経験でした。

 ――アメリカの撮影現場で、言語の壁とかは感じませんでしたか?
通訳やプロデューサーに頼ったりして、私自身はあまり英語が得意ではありません。でも、人と人とのコミュニケーションって、言語をどれだけ知っているかじゃなく、こちらがどれだけ心を開いて、コミュニケーションしようとしているか、オープンマインドでいるか、ということだと思います。
どうしてこんなにしゃべれないのに、皆と仲が良いのかと製作者に言われました(笑)。言葉なんてしゃべれないけどしょうがないじゃない、仲良くしましょうと思うこと。あと、コミュニケーションをとるために、表情がより大きくなっていると思います。それから、監督だからと偉そうにしたりせず、愛嬌は振りまいていましたね。

■キャストについて
――エミリーへの演技指導はどうでしたか?
インテリジェンスがあって深みがある女優さんで、演じるとはどういうことか、基本的な訓練がされていると思いました。本当に演技は上手くて、惚れ惚れしながらも、少し修正してほしい時は、こういう面を出してほしいと言えば、すっとそのとおりやってくれますので、ほとんど演技指導する必要はありませんでした。解釈が違うと思う時は、事前に話し合いましたし、彼女もどうしてもわからないところがあれば、私を呼んで、話し合いました。

――レオニー家の女中役の山野海さんもよかったですね。
山野海さんは、下北沢の小さな劇場で劇団のちらしをみつけ、この顔だと思って、早速舞台を観に行きました。演技も上手いですし、一発で決めました。ご自分で脚本も書き、主演もされている方です。

■映画づくりのことなど
――レオニーとヨネ・ノグチが、久しぶりに再会して満開の桜の中を歩くシーンが印象的でした。
このシーンは、4年ほど前、まだ資金が集まっていない頃に、いざ本編の撮影に入ったら撮れなくなるかもしれないと思って、桜だけでも撮っておこうと、カット割りを細かく決めておいて、東京の千鳥ヶ淵で撮ったものです。エミリーと中村獅童さんには、ブルーバックのスタジオで歩いてもらって合成しました。

――映画づくりについてのお考えは?
ちゃんとした映画をつくるためにきちんと資金を集めるのは、つくり手の責任だと思います。自分が発想したことだから自分でお金を集め、他の人に撮ってもらったら思ってるのと違うものになるかもしれないので、自分で監督もする。そうして一つずつ作品をつくっては、観客の皆さんに観ていただく。メジャーの配給会社に相手にされなければ、自分が映画とともに全国を歩いて、お客さんと交流しながら観てもらう、ということを何年かけてでもやる。そういうプロデューサーとしての感覚があって、いつも私は自分を映画監督と全然思ってないんです。世の中の人たちに問いかけたいと発信をし、同時代を生きている観客の皆さんに共感してもらえるといいと思っています。

――前作では上映会を中心とした公開でしたが、今回は大手配給会社による公開ですね。
『レオニー』については、当初、大手配給会社が資金を出す題材には思えなかったので、それなら自分で資金を集めるまでは、映画をつくる資格はないし、3億くらい集めて、ちゃっちくつくったのでは、資金を捨てるようなものと思って、6年かけてやっと映画化が実現しました。莫大な資金がかかっていますから、メジャーな配給会社の力と、これまでの口コミ力とがうまく合わさって、前よりも大きな広がりになれば幸せなことだと大きな挑戦をしています。国境を越えて世界にもマーケットの可能性があると思っています。


アメリカと日本で一番違っていたのが、仕上げです。撮影後、編集、ダビングといった作業にかける時間が、日本なら2か月半〜3か月ですが、アメリカのシステムではずっと長く、本作では9か月かけました。ドルビーサウンドのいい環境の劇場で上映してもらえれば、音の奥行きも全然違いますし、ぜひ劇場の大きなスクリーンで観てほしいと思います。

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 「自分で本当に自分の人生を生ききったということがあれば、名声もお金も必要ないというのが私の人生に対するとらえ方なので、とにかく死ぬまで挑戦して、死ぬ時にはよく生きたなと思って死んでいければいいと思う」と語ってくださった松井監督は、レオニーの人生に、自身のそんな思いも重ねられたそうです。子育てを終え、自然豊かなところに居を構え、老いていくレオニーの穏やかな表情もすばらしく、苦難に満ちた人生の中で、迷いながらも決断し行動してきたレオニーの生き方は、きっと多くの女性、観客を勇気づけ、励ますものになるにちがいありません。

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