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★『川の底からこんにちは』石井祐也監督インタビュー

(C) PFFパートナーズ(ぴあ、TBS、TOKYO FM、IMAGICA、エイベックス・エンタテインメント、USEN)
『川の底からこんにちは』
〜中途半端に生きてきたら、いつのまにか人生どん詰まり。 暗い川の底から浮上したい人は必見の人生応援ムービー〜

(2009年 日本 1時間52分)
監督・脚本 石井裕也
出演 満島ひかり 遠藤雅 相原綺羅 志賀廣太郎 岩松了
2010年5月1日(土)〜渋谷ユーロスペース、他順次公開
関西では、7/10〜梅田ガーデンシネマ、7/31〜京都シネマ、7/17〜神戸アートビレッジセンター

・作品紹介
 こちら
・公式サイト⇒
 http://kawasoko.com/
 『プライド』『愛のむきだし』でブレイクした、今最も勢いのある女優・満島ひかりの主演作『川の底からこんにちは』が関西でもまもなく公開となる。今回、満島が演じるのは夢も希望もないOL・佐和子。口ぐせのように「しょうがない」を連発し、「どうせ私は中の下の女ですから」と、23歳にしてすでに諦めモード全開だ。そんな覇気のない佐和子が、病気で倒れた父の代わりに実家のシジミ工場を継ぐことになる。だが、経営はうまくいくはずもなく、おばさん従業員には馴染めず、バツイチの恋人は幼い娘を残して女と消えてしまう…。受難続きでどん底まで追い詰められた佐和子は、ある時ついに自分の人生と向き合う決意をする。
 あきらめ目線の「しょうがない」から、開き直りの「しょうがない」へ。もう、がんばらなきゃしょうがない!と覚悟を決めて、工場再生のために奮闘し始める佐和子のプチ革命家ぶりがたまらなく爽快で清々しい作品だ。監督は『剥き出しにっぽん』でPFFアワード2007グランプリを受賞した石井裕也。第19回PFFスカラシップ作品となる本作で商業映画デビューを飾る新鋭だ。26歳にして「妥協と開き直り」をテーマに、人生は退屈だけど捨てたもんじゃないという究極の喜劇を撮りあげてしまった。日本映画界の未来を担う本格派として、底知れぬ可能性を感じさせる石井監督に話を聞く。
 まず、ネガティブにもポジティブにも捉えられる「しょうがない」というキーワードの捉え方について尋ねると「“粋”に憧れているんです」と答える。「江戸時代には“宵越しの銭はもたない”みたいなある種の諦めの感覚があった。おそらくですけど、自分の人生をある部分で諦めているからこそ、清々しくてカッコよかったと思う。だけど、現代は金や物に色々と執着しすぎて、よく分からない世界になってきている。そんな状況のなかで、粋という概念を現代版としてアレンジして再生できれば、これから生きていく上での指標や価値を見出せるんじゃないかなと。「しょうがない」という言葉を最初はネガティブな意味で使っていますけど、それを「がんばらなきゃしょうがない」という“粋”まで昇華させる作り方をしました。」

 どん詰まりから見えたかすかな希望に向けてスパークしていく佐和子の心意気は、とても開放的で潔く、覚悟を決めた人間の凄みを感じる。監督の目指すヒロイン像は分かりやすく説明すると「ジャンヌ・ダルク」だと言う。「そこまでカッコよくないけど、ダメな人たちの中から出てきたヒーローというイメージで描いてみたかった。」そこに満島ひかりの感性の鋭いノラ猫的魅力がガッチリとはまっているわけだが、監督自身は脚本の段階でキャストを想定して描くことはないと話す。「最初に自分のイメージを決め付けて、そうじゃない人に役が決まると、どうしても減点方式での撮影になってしまう。そんな風に傷つくのが嫌なので(笑)キャスティングはプロデューサーにお願いして、僕は役者さんの良さを引き出すことしか考えてなかったです。でも、満島さんの尋常じゃない推進力や力強さは、同世代の俳優さんと比べても一歩抜きん出ていると思う」

 そんな監督が演出をする上で一番こだわるのは“間”だ。「セリフ回しが半拍ずれるだけで、大変なことになるので、結構うるさく言います。特に集中力が途切れた子供への指導は大変でした。」その緻密な演出の甲斐があり、人間味あふれる登場人物たちの掛け合いの間は絶妙でリズミカルに笑いを生む。「脚本はわりと論理的に書くんですけど、単純に笑いというものも好きです。H・ベルクソンの『笑い』という本の中に、人間性が希薄になってきた時に、人間を奪い返す試みが笑いだと書いてあるんです。つまり、笑いは人間らしさに通じていると。その本を読んで、人の愛おしさや温もりを奪い返す喜劇映画を作りたいと思った。佐和子がお父さんの遺骨を投げつける場面とか、笑っていいのか分からないギリギリの表現もあるんですけど、でも、人間や人生ってそんなもの。哀しさと滑稽さは表裏一体。そういう情緒がある笑いが好きですね」

 実際、監督に会うまではもっと斜に構えた若手映像作家という印象をもっていたが、実物の石井監督はとても真面目で哲学的。インディーズ時代も多数の賞を受け、商業デビュー作も絶好調と、ここまでとんとん拍子に成功を積み上げてきた。自身でもその手ごたえを感じるか聞いてみると「よくそういう風に見られるので、結構、風当たりが強いんです(笑)今までも割りと不遇で、とんとん拍子にきている自覚はないんですよ。脚本を書く時も、撮影をしている時も悩ましげで(笑)でも、何年か前よりは認めてくる人は多くなったかな。映画を見た人に面白かった、元気をもらえたと言われるだけで頑張れます。単純ですから。でも、長編映画を6本撮って、段々と世界観が狭まってきている感じがします。見かたを変えれば先鋭化され、ある種研ぎ澄まされているということなんでしょうけど、その風穴を開けられるのであれば、どんなジャンルの作品でも挑戦していきたいと思っています。」

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