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★『ヘヴンズストーリー』瀬々敬久監督インタビュー
『ヘヴンズストーリー』 瀬々敬久監督インタビュー

(2010年 日本 4時間38分)
監督:瀬々敬久(ぜぜ・たかひさ)
出演:寉岡萌希(つるおか・もえき)、長谷川朝晴(ともはる)、忍成(おしなり)修吾、村上淳、山崎ハコ、菜葉菜、江口のりこ、吹越満、片岡礼子、嶋田久作、菅田俊、光石研、津田寛治、根岸季衣、渡辺真起子、長澤奈央、佐藤浩市、柄本明

2010年10月2日(土)〜ユーロスペースで、2010年10月9日(土)〜銀座シネパトス 他全国順次公開
2010年12月4日(土)〜第七藝術劇場にて公開
・ 作品紹介⇒こちら
・ 公式サイト⇒
http://www.heavens-story.com 
※追加情報
12月4日より第七藝術劇場で公開
初日 12:45/18:00の回 舞台挨拶あり(瀬々敬久監督、山崎ハコさん)
23:30よりオールナイト上映あり(瀬々敬久監督×映画ライター春岡勇二さんトークショー付き)
今年一番の話題作とも言われている4時間38分の大作『ヘヴンズ ストーリー』が、10月2日渋谷ユーロスペースを皮切りに全国で順次公開されている。大阪では、12月4日から第七藝術劇場で上映が決定している本作の瀬々敬久監督に、作品への想いや制作秘話を伺った。

━━━4時間38分という長さは当初から想定されていましたか?

最初は3時間ぐらいのつもりでしたが、撮影していて膨らんでいきました。例えば忍成君が屋上で山崎ハコさん相手に独白するシーン(第7章)は最初はなかったんです。でも、最近は何を考えているか分からない不思議な犯人が多いので、ここはカッコ悪くてもいいから相手に伝える、一生懸命語るのが大事だとシーンを追加しました。佐藤浩市さんと雪の中の殺害シーンがあった後に、村上淳さんが強引に大島葉子さんにキスをし独白するシーン(第2章)も最初はなかったんです。煮詰まった男と男の葛藤で殺ったあとは気持ちが高揚しているはずだと思い、追加しました。そんな風にシナリオもどんどん変えて、ドキュメンタリーにもすごく似た作りになっています。

━━━本作でも殺人事件が登場しますが、司法で裁ききれない殺人についてどう思われますか?
普通は司法というものがちゃんとあって、そこと人間との問題になってきますが、この映画の場合には、そこにいる当事者二人がどう問題を処理するかという風にしています。司法の問題になると非常に難しくなり、政治的な文脈も入ってくるし、そこを今回は映画化する気はなかった。敢えてそこを全部外して、終わった後の当事者の話にしようと思ったんです。自分自身も社会的な犯罪事件への興味よりは、どちらかといえば、事件が起こった時に一対一で、ある人間と人間が対峙したみたいな感じのときが好きなんです。
(作品中の)殺人のことをよく言われますが、例えばおしっこを漏らす少女の話(第1章)のような女の子って結構いると思うんです。家族が殺されたトラウマだけじゃなくて、いじめられたでもいいし、ふとしたことで心を閉ざす子はいっぱいいる。そういう人たちが居場所を探している風に見てもらえるといいと思っています。今確実なものってみんなないから、自分の拠り所をみんな探していると思ってもらえるといいのではないかと。

━━━今回登場人物は非常に多いですが、4時間38分を使って色々な人の一対一を描こうとされたのですか?
いろんな方向から多面的に見たかったのです。だから被害者側からも加害者側からも見るんだと。いい人悪い人、善人悪人ではなくて、一般的に「あいつが悪い」ということがよく言われるけれど、果たしてあっち側から見たらどうなんだろうということをやってみようかと思いました。また、最近のニュースでは、下手したら自分が入り込んでしまうかもしれないという不安が多いですよね。そういう意味では僕たちも渦中にいるんだ、当事者になりかねないんだという風に作りたかったのです。我々も傍観者ではなく、作り手も渦中にいるように作りました。 

━━━タイトルの「ヘヴンズ ストーリー」は神様から見た色々な視点ということですか?
今回の「ヘヴンズ ストーリー」は海外に持っていくと非常に評判が悪くて(笑)。向こうの考えているヘヴンと違うみたいです。「極東のイエローモンキーが何を“ヘヴン”っていちびって付けてるんだ!」と思われてるんじゃないかな。キリスト教というよりもう少し日本ぽく、曼荼羅っぽくしたかったんですよ。だから、草にも木にも神様はいますよと。日本人の感性で神様ってどこにでもいるわけで、そういう風な世界観にしたかったんです。そういう意味で人形とかも使いたかったし。

━━━瀬々監督の映画では人間は愚かしいという感じで描かれることが多いのですが、人間は監督から見ればどんな存在ですか?
エネルギーだなと思ってるんですよね、マグマみたいな。例えば忍成くんが子どもを殺す前に太陽にかざして見るわけです(第1部)。ギャンギャン泣いているのは忍成くんにしてみれば命の塊を見たと思うんです。それは言葉で形容できない命の塊、ある種自分にとっては怖いような存在があるわけですよね。それをどうしようもない、負だと思うこともあるし、素晴らしいと思うこともある。人間はエネルギーの塊、マグマのような感じ、それを命といってもいいと思うんですが、今回撮ってみてそう思いますね。

━━━山崎ハコさん演じる恭子は、本作のキーとも言えるような存在ですが、恭子のキャラクターはどのように作られたのでしょうか。
忘れることに対する恐怖がありますよね。例えば主人公のサトは後半になると最初に「ダメだと思います。」(第4章)と言ったサトよりちょっとニュアンスが変わってきています。「ダメだと思います。」と言ったときはすごく無垢な少女だったけど、ちょっと世界の裏を知って、恋愛も知って、逆に普通の人になっている、いわば成長したように思いますよね。成長が忘れるということだったら、それは果たしてダメなことなのか。僕らは普通忘れることは怖いと思うけど、忘れることもある重要さを持っていると思うんです。人間は忘れていくけれど、ハコさんは忘れれば忘れるほど逆に神々しく見えてくるというか、そういう存在でした。

例えば、神戸の震災やオウム事件など今は忘れて生活しているけれど、自分の中に忘れるということがひっかかることがあります。同時に“忘れることが人間”というテーマがあって、だからハコさんのような登場人物を作ったんでしょうね。

恭子役のハコさんの顔は、この映画の印象をかなり決定づけていると思います。みんなハコさんのことは知っているけれど、顔や演技を知らないので、既存の女優さんが演じるよりリアリティーがあるように見えたのでしょう。ハコさんはシンガーだけど、そこに存在するだけで彼女が生きてきた人生や、見てきた風景が後ろに見えている存在感がある。(作品の)力になっています。

 ━━━本作のエンディングの曲は非常に印象的で、心に残りました。瀬々監督が歌詞を書かれていますが、どのようなプロセスの中であの曲は生まれたのでしょうか。
ラストシーンに関してはすごく悩みました。10月にラストカットを撮って年内に編集したのですが、それではどうしても足りないと思ったんです。その段階で音楽の安川午朗さんに見せたところ、安川さん曰く「この長時間の映画で、お客さんにお土産を持って帰ってもらいましょうよ。」そして、「監督、歌詞を作って下さい。僕が曲を書きます。誰かに歌ってもらいましょう。」ということで作詞しました。撮影に関しても、「もっとサトの決意を撮ろう、サトはこれから生きていくんだという決意をもっと撮ろう。」ということで、1月に寉岡さんのアップのラストの顔を撮ったんですよ。
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「今言ったようなことが絶えず行われている映画なんです。一度編集をして、まだ足りない・・・。そういうやり方でやっていたということですね。だからみなさんもその行為でできた作品に付き合うというか、僕たちのこの映画に対して深みにはまっている感覚を追体験してもらってるんだろうなと思います。」とラストシーンのエピソードに加えて語られた瀬々監督。確かに、観終わってから何日か経っては映画の中のシーンを思い返してみたり、また自分の子どもの頃の経験や思いと重なったりと、他の映画にはない余韻が延々と残る作品だ。

「雲上の楽園」と呼ばれる鉱山廃墟、渡し船のある海辺の団地、生きているかのような動きを見せる人形劇・・・四季を織り交ぜた情景の中で語られる10年物語から、是非たくさんの“お土産”を持って帰ってほしい。

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