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 『ビューティフル アイランズ』
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★『ビューティフル アイランズ』海南友子監督インタビュー

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ビューティフル アイランズ
〜海に沈む3つの島をみつめる
            世界一周環境ダイアリー〜

(2009年 日本 1時間46分)
監督・プロデューサー・編集:海南友子
エグゼクティブプロデューサー:
 是枝裕和
7月17日(土)梅田ガーデンシネマ 7月24日(土)シネ・リーブル神戸 7月31日(土)京都シネマ 
・作品紹介⇒こちら
・公式サイト⇒
http://www.beautiful-i.tv/

 21世紀中に海の底へ沈むと予測されている南太平洋に浮かぶ人口1万人の小さな国「ツバル」。高潮の影響で年に80回以上も浸水する世界遺産の街「ベネチア」。永久凍土の溶解で高波が発生し、島全体が崩壊しつつあるアラスカ最西端の「シシマレフ」。気候変動による海水面の上昇で、いつ沈むかもしれないという危機的状況にある3つの島々の現在をゆるやかに見つめる。水没の深刻さや問題点を問いかけつつも、島民の歴史ある文化や伝統をクローズアップするなど、環境ドキュメンタリーという枠にとらわれない美しい映像の数々が見どころ。監督は元NHKディレクターの映像作家・海南友子。完成までにリサーチを含め、3年半で世界を3周したという海南監督に、本作へ込めた思いや撮影に関する苦労を聞く。
 監督が『ビューティフル アイランズ』に取り掛かった最初のきっかけは、南極に近いパタゴニアで巨大な氷河が轟音をあげて崩れ落ちる瞬間を目の当たりにした事だと言う。失われるものの姿を映像にとどめたい。そうして、世界で最初に沈むと言われるツバルを訪ねた。「ツバルの美しさは予想以上でした。リゾート開発もされていない田舎で、テレビも新聞もインターネットもありません。電話もほとんどなくて、メールを開けるのに2時間かかる(笑)でも、電気的なものがない分、人が集う絆を感じました。初めは島で“被害”を撮ろうと思っていたんだけど、実際に行って問題は被害じゃないと気付いた。これから消えるものは一体何か。それは、美しい絆や美しい暮らし。島の綺麗なものや楽しいものを撮る方が、意味があると考えツバルの文化とか気候を雄壮的に撮ろうと思ったんです。特にツバルのハテレというお祭りで奏でるハーモニーはものすごく素敵で、島の魂が全部宿っていると感じた。とてもうらやましくてハテレは大事に扱っています。」

 監督がツバルに滞在した期間は4ヶ月。ディープに島と向き合ったからこそ、沈む国ツバルは可哀想という頭でっかちな考えは無くなった。「子供の笑顔や歌を聴いた方が心で感じるものが多いと思う」そう語る監督の強いこだわりで本作にはナレーションやBGMが一切入っていない。「島の風に吹かれたり、波の音を聞くことで言葉では感じられない何かを受け取ることができるはず。映画を見てくれる方が、実際、島へ旅に行ったような感覚の作品にしたかったんです」

 3つの島は、暑い島・寒い島・華やかな島の基準で選ばれている。寒い島の代表となったアラスカのシシマレフは、10年という短いスパンで島が全部なくなる可能性があるという。「シシマレフの人々はアラスカ本土へ全土移住が決まっているんです。シシマレフは地面と空の境目がなくて、天国があるならこういう所だなと思った。でも撮影は、宿泊施設もなく小学校の教室に寝泊りしていたので大変でした。」シシマレフの場面では、島民伝統のアザラシ猟もカメラにおさめられている。これが驚くほど神秘的で、劇中一番の見せ場かもしれない。「アザラシを捌くシーンは、あれを撮るために行ったようなもの。リサーチの時に見て、すごく神々しくてアラスカの美しさを語るならこれがないとダメだと思った。どうしても撮りたくて、あの行為全体を通じてアラスカが好きになりましたね」

 そして、華やかな島・ベネチア。超有名な観光地が水で溢れかえる映像はまさに衝撃の連続だ。「ベネチアの洪水は多いと年に80回。しかも、11月と12月に被害は偏っていて冬だから水がすごく冷たいんです。さらに、日本の台風の被害と違うのは、水が“海水”なので伝統的な大理石の建物も塩だらけになる。とても影響が深刻です。30年前は17万人いた住民も今は6万人と減っています。一番怖いのは、もっと逃げまどう人がいると想像していたら、そんな人1人もいないこと。事態が深刻に進みすぎているので、淡々としているのが逆に怖い。ベネチアは水没してもホテルやレストランは営業を続けていますし、ツバルは水がそこまで迫っていても子供たちはそれを楽しんでいる」

 そんな被害をもたらす気候変動の悪化は、はっきりいってアメリカや中国や日本といった超先進国の影響が強い。穏やかに暮らす島の人々には、その余計な皺寄せに怒りを感じることはないのだろうか。「それぞれの島で、なんで私たちの国がって思いませんか?って、聞いてみたんです。けれど答えは共通していて、誰がいいとか悪いとか議論しても仕方のないこと。他国にも様々な事情があるでしょうから、一方的に自分たちが被害者だとは思わないという返答でした。人が良いというか、問題の深刻さを受け止めているので、誰かを非難したところで解決することはないと達観しているんですね。」
(中西 奈津子)ページトップへ
   
             
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