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『RIVER』廣木隆一監督単独インタビュー
『RIVER』 廣木隆一監督単独インタビュー

(2011年 日本 1時間29分)
監督・脚本:廣木隆一
出演:蓮佛美沙子,根岸季衣,田口トモロヲ,中村麻美,
    尾高杏奈, 柄本時生,葉葉葉,小林ユウキチ

2012年3月10日よりユーロスペース、6月16日〜第七藝術劇場、4月7日〜MOVIE ONやまがた にて公開
・作品紹介⇒こちら
・公式サイト⇒
http://river-movie.com/
 『ヴァイヴレーター』、『軽蔑』と若者の激しくも刹那的な愛をギリギリのところまで描いてきた廣木監督。秋葉原殺傷事件をモチーフに、今までのタッチとは異なり、主人公を見守るような距離感が印象的な最新作『RIVER』がいよいよ関西でも公開される。
キャンペーンで来阪した廣木隆一監督に、冒頭の歩くシーンが印象的な本作の狙いや、撮影直前に起きた震災が監督や作品に与えた影響について話を伺った。
━━━事件そのものを描くのではなく、事故から数年経った今が舞台ですね。
事件というと、加害者の方のことを描いて、犯罪につながるということになりますが、動機はいろいろなこじつけがあって、何が本当かということより、人が死んだ事実の方がすごく心に残っています。セオリー通りの犯罪者の成り立ちが信用できなくて、逆に被害者側や、変わらず存在している街の方に興味がありました。

━━━監督から見て、秋葉原という街をどう捉えていますか。
久々に撮影で秋葉原に行きましたが、すごく変わっていましたね。メイド喫茶やきれいなビルや、AKBの劇場や、そこにくると同じ趣味を持った人たちに出会えるものを作っています。僕が昔、学生で東京に出てきたときは歩行者天国があって、いろいろなパフォーマンスやライブをやっているのとそんなに変わってないです。ただ、昔はそこに文化がありましたが、今は文化がない気がしますね。

━━━冒頭15分間、主人公が秋葉原の街を歩く姿を長回しで映し出したのはどういう狙いですか。
最初はあんなに長く撮ろうとは思わなかったのですが、実際ロケハンをしているうちに、秋葉原を知らない人もたくさんいるだろうと感じたんです。それで、秋葉原の駅を降りて、事件が起きたところまでリアルで見せようという気になりました。

━━━秋葉原の街の様子や、映り込んだ人たちの姿に見入る一方、どこまで続くのかというドキドキ感がありました。
そのスリル感は僕にもあって、映画はカットしながらできていくのでしょうが、そうではなくて、「どこまで行くの?」と思ってもらうのもいいんじゃないかと。

━━━主人公ひかり役に蓮仏さんを起用したきっかけは。
この企画を出した段階で、紹介され、興味があるので合わせてもらいました。僕は女優さんと会うときはイメージを持たないので、蓮仏さんも逆に普通の女子大生みたいでいいなと思いました。すごく芝居が上手くて、細かい内面の芝居をしてくれました。

━━━蓮仏さんのどういう部分の芝居がよかったですか。
蓮仏さん曰く、ドラマをしているとある流れ作業の中で芝居をしていくのに対し、この現場ではいきなり街に放り込まれて「歩いて」と言われて、設定だけはしているものの、まさかこれだけ歩かされるとは思わなかったそうです。その間彼女が何をやるかというより、その街に降り立った瞬間その役になりきれる。久々にそういう演技を思い出しましたと言ってくれたのがすごくよかったです。冒頭ワンカットのシーンでも台本に泣くとは書いていなかったけれど、そういう気持ちになったので泣いちゃったと言っていました。

━━━本作のような手法で映画を作ることは、珍しいですね。
僕はピンク映画出身ですが、当時は事件が起きるとすぐに脚本を書いて、ピンク映画の中に取り入れて撮れました。今そういう風に撮って公開できることがあまりありません。マンガや売れた小説が原作か、テレビからの流れからといった見え方がしてしまって、自分自身がこういう映画(『RIVER』)を見たかったのかなという気がします。

━━━映画のタイトルや作品中流れる『MOON RIVER』など『RIVER』というキーワードにはどんな意味が込められているのですか。
最初タイトルも『MOON RIVER』だったんですよ。基本的には川に写る月と、秋葉原には忘れられたように神田川があるのですが、そこに写る月と本物の月との違いを表しています。昔は街が幻想を見させてくれましたが、それが今はあまりありませんね。

━━━作品中ではメイド喫茶でバイトをしている女性など、秋葉原で非日常を生きる人の断片が映し出されていました。
非日常にとけ込める人と加害者のように裏側でその人たちを疎ましく思ってしまう人がいます。僕も若かったら溶け込めない方の人間でしょう。シナリオやロケハンの時にメイド喫茶を何軒か見ましたが、「お帰りなさい!」と言われても、別に帰ってきたつもりはないし(笑)。

ビルの屋上にいた青年のように、心地よい場所を壊されたという人もいるでしょう。単なるゲーム好きだけではなく、そこで友達になった人が犯罪者になってしまったみたいな中立的で純粋に秋葉原を好きな人物を絶対にいただろうと思い、登場人物に加えました。

━━━本作制作の際、震災はどのようなタイミングで発生したのですか。
準備やロケハンをしているときに3.11が起こりました。映画業界は皆そうですが、映画を撮ることをやめたり、映画なんかをやっていいのかという気持ちになっていて、僕らやスタッフも一瞬止まりました。でも、せっかく3月下旬から撮影に入る映画があり、また、何年か前に秋葉原で起きた事件で、今もう一度そこに立つ主人公がいるときに、今起きていることを取り入れた方がいいのではないかと思って脚本を書き直しました。

撮っているときは、マスコミから流れる映像しか知らないし、行ってみても撮れなければ仕方がない。とりあえず行って、自分の目で確かめてみようと思っていました。それをフィクションの中に採り入れると、どんな風になるのかは分からなかったけれど、編集段階で何を言われても責任を持てばいいと思って、撮影したものを使うことに決めました。今は入れてよかったなと思いますけどね。先日震災から一年経って色々な行事がありましたが、何年かするとだんだん震災の記憶も薄れていくじゃないですか。忘れないために、そのときの感情をちゃんと記録できたのでよかったです。

実際最初に行った場所は、本当に水浸しで何もないのを目の前にして、何の言葉もなかったです。登場人物の小林と一緒で言葉を失いました。

━━━震災を体験し、目の当たりにすることで、今後撮りたいものや、映画を撮る姿勢などで変化はありましたか。
職業として映画を選んで、その時代に生きて死んでいくのだろうし、そのときに残る映画というのは、ちゃんと時代を反映した映画を撮らなければと思っています。商業映画でも、そのときの時代はこんな気持ちだったという部分をどこか残したいし、古典や芥川のような文学を手がけるときも、映画は今の僕らの視点でやっていかなければいけませんね。

━━━監督の中で印象的なシーンはありますか。
全部です。特に後半は強すぎて。リアルタイムで十数分秋葉原の駅から事件の現場まで歩いて行く蓮仏さんの芝居はすごくいいですね。

━━━押しつけがましくない描き方で、こちらも一緒になって考えたり、寄り添える作品ですね。
東京で上映したときには、毎年3月になったら上映してくれと頼んだりもしました。どんなに大きな出来事でも、どうしても日常に流されて忘れてしまうけれど、また再び『RIVER』を観て思い出せれば、この映画の意味がある気がします。癒されたり消えたりしないのは普通だと思うし、見てくれて楽になってもらえればいいと思います。

あと、『ぼくらは歩く、ただそれだけ』というDVDが8月にリリースされますが、それも安藤サクラが写真を撮っている女の子役で歩く映画です。やっていることは似てますね。

━━━歩く姿を映し出すのがお好きなんですね。
僕自身歩くのは嫌いですが(笑)都内も歩いているとおもしろいですよね。色々な発見があって。 歩くのって基本じゃないですか。走らなくてもいいから歩こうよと、映画の中でも思っています。急ぎすぎじゃないか、歩くスピードでいいんです。

━━━最後に監督からのメッセージをお願いします。
『RIVER』は震災のことを描こうとしているわけではなく、今起きていることと、今感じていることを映画にしたので、多くの方に見ていただきたいと思います。
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 秋葉原殺傷事件で亡くなった彼の面影を探す主人公の旅は、いつしか秋葉原に集う人たちや、そこで働く人たちの”他では得られない何か”を探す姿までも切り取り、震災の地の故郷に降り立つ男へとつながっていく。「今起きていること」を切り取りながら、喪失感と、そこから一歩前へ踏み出すまでを描く再生の物語は、今まだ多くの苦しみを抱える被災者への静かなメッセージなのかもしれない。

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