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孤島の王

(C)les films du losange
『孤島の王』 (Kongen av Bastoy)
〜行動に出た少年らの計り知れない哀しみ〜

(2010年 ノルウェー,フランス,スウェーデン,ポーランド 1時間57分)
監督:マリウス・ホルスト
出演:ステラン・スカルスガルド,クリストッフェル・ヨーネル,
    ベンヤミン・ヘールスター,トロン・ニルセン

2012年4月28日(土)〜ヒューマントラストシネマ有楽町他全国順次公開
5月5日(土)〜テアトル梅田、シネ・リーブル神戸 他にて公開

公式サイト⇒http://www.alcine-terran.com/kotou/

 ノルウェーの首都オスロの南方75qにあるバストイ島に1900年から非行少年のための矯正施設が存在していたという。最初に本作が実話に基づいていることが示され,1915年エーリングが島に送られてきて物語が始まる。迎えたのは,院長や寮長のほか,6年前から島にいて間近に卒院を控えたオーラヴだ。慣れるより逃げると思われたエーリングは,実際に一度脱走するものの,すぐに連れ戻される。その後も,彼は反抗的態度を取り続けた。
 青黒い海の上にどんよりとした空があり,寒風が吹きすさぶ。懲罰として,森で作業させられ,食事を半分にされる。しかも残飯のような食事だ。オーラヴは,脱走したエーリングへのムチ打ちを命じられ,やむなくそれに従う。エーリングと一緒に島に来た少年が自殺する。寮長による性的虐待の疑いが持ち上がる。院長もまた施設の予算に手をつけているようだ。院長は,少年が脱走を図って溺死したと説明する。やるせないシーンが続く。
 船乗りのエーリングは,銛を3本打っても死なない鯨がいた,と話し始める。その鯨は衰弱していたが丸一日生き延びたという。最初はタフな鯨の話のように聞こえるが,次第にあと一日しか生きられなかった鯨の話のように思えてくる。エーリング自身の行く末を暗示するようで,もの悲しい。思えば,最初から少年たちが耐え忍んでいるような空気が流れていた。物語が進むに連れ,院長や寮長さえ,何かに耐えていることが伝わってくる。
 人間が社会を形成する限り避けられない哀しみが全編を通じて底に流れている。もっとも,クライマックスは少年らの反乱だ。オーラヴは,卒院が一週間後に迫っても浮かない表情をしている。卒院の日を迎えても厳しい表情だ。エーリングの態度がオーラヴの内面に少しずつ影響を与えていたに違いない。何かが起こる予兆が膨らみ,オーラヴがうっ積を爆発させる。だが,“孤島の王”の座は泡沫のように消え去り,その後全てが元に戻る。

(河田 充規) ページトップへ

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