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『私が,生きる肌』
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私が,生きる肌
『私が,生きる肌』  (La piel que habito)
〜理不尽な仕打ち,されど私は生きていく〜

(2011年 スペイン 2時間)
監督・脚本:ペドロ・アルモドバル
出演:アントニオ・バンデラス,エレナ・アナヤ,マリサ・パレデス,
   ジャン・コルネット,ロベルト・アラモ,ブランカ・スアレス,
   スシ・サンチェス

2012年5月26日(土)〜TOHOシネマズ シャンテ、シネマライズ、6月2日(土)〜TOHOシネマズ(梅田、二条、西宮OS)、近日シネ・リーブル神戸 ほか全国順次公開
公式サイト⇒http://www.theskinilivein-movie.jp/

 顔はその人自身だと考えるロベルは,妻ガルへの偏執的な愛情と娘ノルマを奪われた復讐のため,ビセンテの外見を全て変えてしまう。一方,ベラは,自分の外見を消し去ろうとするが,心の奥の誰にも破壊されない場所に到達して自由を得るため,ヨガに集中している。ロベルは自ら創造したベラを幽閉してモニターに映しているが,反対に彼自身がベラの虜で身動きできなかった。モニターに映る彼女の顔は,ロベルを呑み込むほど大きい。

 ロベルがベラに施した封印は,虎の扮装で突然現れたセカに破られる。彼がモニターに小さく映るベラを舐める姿は,子鹿を襲う虎そのものだ。ロベルとセカは,マリリアの胎内から生まれた異父兄弟で,色合いは正反対だが,狂気という共通項で結び付いている。感情を持たない兄と感情に支配される弟は相容れることなく,2人の接点には悲劇しか生まれない。マリリアも,ベラの世話をしながら,彼女を殺すべきだと物騒なことを口走る。

 観客の頭の中で,ベラはどこから来て何をしようとしているのかという疑問が大きく膨らむ。そのとき,絶妙のタイミングで過去へと誘われる。そこから先の展開は,アルモドバルのブリリアントな才能が全開だ。ベラの眠る顔のアップから服飾店で働くビセンテに切り替わり,脈絡が分からないまま2人が向き合うカットを見せられる。エンディングまで見届けた後に振り返ると,2人の緊密な関係が巧みに表現されていたことがよく分かる。

 炎の中から生還したガルは,娘ノルマの歌声を聞いて新たな生への希望を抱いた直後,ガラスに映った自分の姿に悲嘆して窓から身を投げる。その後,同じ歌が再びノルマの精神を狂わせて悲劇の連鎖を生み出す。ロベルは,父親が襲ったと思い込んだノルマに拒絶され,幾重もの悲しみに包まれる。だが,ベラが未来を信じて時機を待っていたため,本作は単純な悲劇では終わらない。彼女の母親に対するラストの一言に籠もる思いは複雑だ。

(河田 充規) ページトップへ

(C) Photo by Jose Haro c El Deseo
   
             
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