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CUT

(C) CUT LLC 2011
『CUT』
〜映画狂の叫びを胸に刻め!〜

(2011年 日本 2時間12分)
監督:アミール・ナデリ
出演:西島秀俊、常盤貴子、菅田俊、でんでん、笹野高史他

2011年12月17日〜シネマート新宿、シネマート心斎橋他全国順次ロードショー
公式サイト⇒http://bitters.co.jp/cut/
※第68回ヴェネチア国際映画祭オリゾンティ・コンペティション部門オープニング作品
 ビルの屋上に若い観客が集まり、バスター・キートンと邦画の名作二本立て上映が始まる。ファンタジーにすら思える光景から、部屋いっぱいに飾られた往年の名画のポスターや切り抜き、自主上映のチラシたちまで、映画のために生きている主人公=監督の原風景が焼きつくだろう。2011年東京フィルメックスの審査委員長を務めたアミール・ナデリ監督と西島秀俊の「本当の映画を取り戻す試み」は、挑発的かつ神聖さすら感じさせる。
 兄にお金を工面してもらいながら映画監督をしている秀二(西島秀俊)は、ある日、組のボス、正木(菅田俊)から兄が多額の借金を残したままトラブルに巻き込まれ殺されたと告げられる。ヤクザ相手に仕事をする陽子(常盤貴子)、組員のヒロシ(笹野高史)に助けられながら、2週間で借金を返済するため、秀二は兄が死んだ組事務所のトイレで殴られ屋を続けるのだが・・・。
 現代の単なる金儲け、エンターテイメントと化した映画から、真の映画を取り戻すとはどういうことなのか。秀二にとっては、自分の命を賭けた借金返済のための殴られ屋が、映画を撮るために生きる自分を取り戻す試みであり、そして殴られるために口ずさむ名作の数々がどんな痛みにも耐える力を秀二に与える。殴られてなお、自らの映画に対する思いを強くする秀二のアザだらけとなった裸体に名画の忘れがたい情景がオーバーラップするとき、あまりにも美しく幻想的な瞬間が訪れるのだ。
 「映画を取り戻す試み」はそれだけにはとどまらない。死を覚悟の100本殴りのシーンでは、観客にも映画の100本ノックが飛んでくるのだ。そして何よりも秀二が黒澤、溝渕、小津の日本三大監督の墓参りをするシーンに、アミール・ナデリ監督の彼らに対する並々ならぬ敬愛の念が現れている。音楽を一切廃し、静寂や間を味方につけて主人公の感情を際立たせた本作の演出にも、巨匠たちの影響が垣間見えるだろう。
 1人苦境に立ち向かう秀二を静かに支える陽子とヒロシ、そして亡くなった兄のボス、正木は、孤軍奮闘する映画監督を支えるスタッフにも重なる。特に久々にスクリーンに登場した常盤貴子のボーイッシュで凛とした姿が、男だらけの血生臭い黒社会の中でキラリと光った。皆が言いたいことを、これだけ声高に、何度も繰り返して訴えたまさに映画人による映画人のための映画。「死ぬな、映画!」、そんな壮絶な叫びが数々の名作と共に頭の中を駆け巡るにちがいない。
(江口 由美)ページトップへ
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