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ものすごくうるさくて、ありえないほど近い

(C) 2011 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC.
『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』
(Extremely Loud and Incredibly Close)
〜アメリカ、10年後の9・11事件〜

(2011年、アメリカ、2時間9分)
監督:スティーブン・ダルドリー
出演:トム・ハンクス、サンドラ・ブロック、トーマス・ホーン、
    ジェームス・ガンドルフィーニ、ゾーイ・コールドウェル

2012年2月18日(土)〜丸の内ピカデリー、大阪ステーションシティシネマ 他全国ロードショー
公式サイト⇒ http://wwws.warnerbros.co.jp/extremelyloudandincrediblyclose/
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 事件(2001年)から10年経って、ようやくアメリカが冷静に悲惨な出来事を振り返り始めた。9・11「同時多発テロ」は日本による真珠湾攻撃以来、アメリカが直接、外国の攻撃にさらされた悪夢の日。ハワイ・真珠湾と違って、アメリカ本土、それもニューヨークのど真ん中だったことがアメリカ人にどれほどの衝撃を与えたことか。本作は、2つのビルや何千人もの被害もさることながら、一般庶民に与えた精神的なダメージはこんなにも大きかったと痛感させられる作品。
 ニューヨークに住む少年オスカー(トーマス・ホーン)は、同時多発テロで大好きな父(トム・ハンクス)を亡くした傷を引きずったまま、父の死を受け入れられず、母親(サンドラ・ブロック)とも心を開くことが出来ない。事件の日、父は現場のビルから彼に何度も電話をし留守電に声が残っているが、ビル崩壊直前の電話には恐れる気持ちから出られなかった。それが悔やまれてならない。
 そんな彼が、ふとしたことから1本の鍵を見つけ、この鍵に父親の最後のメッセージが残されている、と信じて鍵穴を探す旅に出る。それは父親とオスカーが日頃、2人でやった遊びでもあった…。オスカーは鍵穴にたどり着けるのか、鍵に込められたメッセージとは何か? アメリカ人のみならず、9・11とは何だったのかを考えさせるサスペンス仕立ての展開で惹き付ける。
 オスカーの心の荒廃がアメリカ人全体の荒廃だろうか。彼は誰にぶつけることも出来ない憤懣をひとりで抱え込み、内に閉じこもる。クラスでも孤立し、母親とも話ができず、ネットから拾ってきた「男が宙を飛ぶ写真」が父ではないかと思い、母親に「死んだのがママなら良かった」とつぶやく。心のすさみようがどうしようもなく痛々しい。
 事件当時、アーノルド・シュワルツェネッガー主演のパニック映画「コラテラル・ダメージ」が公開間近だった。テロ被害に遭った消防士が報復する映画だが、事件に酷似していることから公開延期になった。以来、アメリカ映画、とりわけ人気が高かったアクション映画がぐっとパワーダウン、興行も低迷したことは周知の事実。2005年の「ユナイテッド93」は9・11でハイジャックされた4機目の飛行機の実話で内部の様子と外部の緊迫したやりとりが盛り上げた。だがその映画をオスカー少年が見る訳はなかった。
 アメリカの戦争映画は“9・11”以上のリアリティーを得ることが出来ず、イスラム勢力を敵とする映画は現実だけで十分だった。米軍のアフガン侵攻の様子が生々しくテレビをにぎわし、もはや映画は不要。9・11の真の原因など考える空気はなく、ヒステリックな報復の気分が全米中を支配した。世界にとっても不幸の始まりだった。

 こうして約10年、昨年ようやくにっくきビンラディン容疑者の暗殺に成功してアメリカはようやく落ち着きを取り戻したのか、昨年の映画「リメンバー・ミー」では日常生活の中でさりげなく事件が登場した。最後に主人公(ロバート・パティンソン)が父親と会うために高層ビルにある事務所に行き、そこが貿易センタービルで飛行機がぶつかって終わった。アメリカは精神的に事件を昇華出来たと言えるのてはないか。

 あの当時燃え上がった愛国ムードも今は落ち着き、映画人も冷静になって事件を見つめることが出来るようになった。映画にイスラムが敵として当時しなかったのが、成長の証なのかも知れない。

 オスカーは鍵に隠された意外な秘密を知る。それは期待したような「父親のメッセージ」ではなかったが、母親はじめ、多くの人々の「立ち直ろう」「ともに立ち上がろう」とする温かい気持ちに気付くきっかけになるもの。オスカー少年に何よりも必要なものだった。それは今、アメリカよりも日本にこそ必要とされるものではないか。

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