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 ドラゴン・タトゥーの女

(C) 2011 Sony Pictures Digital Inc. All Rights Reserved.
『ドラゴン・タトゥーの女』
(THE GIRL WITH THE DRAGON TATTOO)
〜スウェーデンから現れた“最強”ヒロイン〜

(2012年、アメリカ、スウェーデン、イギリス、ドイツ 2時間38分)
監督:デヴィッド・フィンチャー
出演:ダニエル・クレイグ、ルーニー・マーラ、
    クリストファー・プラマー

2012年2月10日(金)〜TOHOシネマズ日劇、TOHOシネマズ(梅田、なんば、二条)、大阪ステーションシティシネマ、ほか全国ロードショー
公式サイト⇒ http://www.dragontattoo.jp/
 スウェーデン発のミステリーに久々、暗い興奮を覚えた。3部作「ミレニアム」の第1部「ドラゴン・タトゥーの女」(スティーグ・ラーソン原作)が早川書房から刊行されたのは08年12月。いち早く本国で映画化され昨年、日本でも3作が順次公開された。海外ミステリーを詳しくチェックしているわけではないが、60 〜 70年代に人気を集めたペール・ヴァールー、マイ・シューヴァルの「刑事マルティンベック」シリーズ(全10作)を読みふけった記者には久々にスウェーデンらしいダークな面白さに出会えた気がした。
 「ミレニアム」は深い闇に包まれた面白さといえばいいか。スウェーデンにはそんな土壌があるのか、ヒロイン、リスベット・サランデルの特異な魅力が際立つ。拒食症のようにやせぎすで無愛想、パンク・ファッション、バイクをさっそうと乗り回し、何よりもコンピューター知識に秀でた天才ハッカー。自らの能力で男に頼ることなく自立している…ハリウッドのヒロインがイマイチ冴えない昨今、ユニークなヒロインがスカンジナビア半島から登場した。
 リスベットは12歳の時、暴力をうけていた父親を殺そうとして精神病院に入れられた過去を持つ。映画『ドラゴン・タトゥーの女』の冒頭はそんな暗い過去が今も尾を引いていることを示す。ショッキングそのものの出だしに一気に引き込まれる。小説の原題は「女を憎む男」。女性への凄まじい偏見と暴力が小説にも映画にも流れている。おそらくハリウッドではまともに映画化できなかったのではないか。生まれつき暴力にさらされ、悪意に満ち満ちた世の中にたった一人で立ち向かうやせっぽち少女リスベットが絶大な人気を集めるのは当然かもしれない。
 主人公は真相究明に燃えるジャーナリスト、ミカエル・ブルムクヴィスト(ダニエル・クレイグ)。共同経営として参画する雑誌「ミレニアム」で自分の書いた記事が名誉棄損の有罪判決を受け休暇を余儀なくされる。そんな彼に調査の仕事が。発注者は経済界に君臨するヴァンゲル一族の長老ヘンリック・ヴァンゲル(クリストファー・プラマー)。40年前、16歳の姪ハリエットが“密室状態”の中、忽然と消えた事件を解明するよう依頼される。ブルムクヴィストは「殺されている」と直感するが、死を前にした老人の最後の頼みを引き受ける。
 そのブルムクヴィストの補佐に雇われたのがセキュリティ会社のやり手調査ウーマン、リスベット・サランデル(ルーニー・マーラ)。実は彼女は、ヘンリックから依頼されてブルムクヴィストの“徹底調査”をすでに行っていた…。 こうして“ボンド”クレイグとダーク・ヒロインの陰陽タッグが、財閥一族の深い闇に挑む。ハリエット失そうの謎は一族の長く秘められた秘密を暴きだすことになる。

  結論を言えば、さすがデヴィッド・フィンチャー。『セブン』や『ゾディアック』で見せたような、おどろおどろしくミステリアスな事件描写は実に秀逸だった。成功の要因は監督がスウェーデンにこだわったから。「物語のルーツはスウェーデンにあり、舞台をアメリカに移すことは出来なかった」と監督はいう。彼の地の風土が本国版をもしのぐ結果をもたらした。
 ハリウッド・リメイクはこれまで「別物」になることが多かった。先の「マルティンベック」シリーズでいえば、本国で『刑事マルティンベック』が映画化されているのに、原作の人気に目をつけたハリウッドが別の原作で『笑う警官』を映画化。舞台はロサンゼルス、主演はウォルター・マッソーだから、原作とはほど遠い刑事アクションで原作の繊細な刑事集団のチームワークという味わいはなかった。昨年公開されたアメリカ映画『モールス』も、もとはスウェーデンのヨン・アイデヴィデ・リンドクヴィストの原作。本国では『ぼくのエリ 200歳の少女』というタイトルで映画化されている。アメリカ版『モールス』も忠実に原作の味わいを出していたが、本家のぬぐいようのない暗さはみられなかった。
  『ドラゴン・タトゥー』はダニエル・クレイグが原作の大ファンだったこと。リスベット・サランデル役に、スカーレット・ヨハンソンやナタリー・ポートマンら売れっ子スターを抑えて『ソーシャル・ネットワーク』のルーニー・マーラが射止めたことなど“ホンマらしさ”を醸し出す仕掛けが成功した、といえる。 デヴィッド・フィンチャー独特のヴィジュアル重視は「ヴィジュアルを通して語られた深遠な物語」浮き彫りにした。それを象徴するのがヒロイン、リスベット。映画では最初、不気味に見えたモヒカン刈り女が、だんだん可愛い女に見えてくるあたり、監督の惚れ込みようが見える。まさしく、彼女は最強ヒロインだった。

(安永 五郎) ページトップへ

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